300のお題シリーズ
お題『 パチンコ 』
何となく、ただ、何となくそうしていただけ。
俺はこのごろ毎日日課になりつつある店から、外へと足を踏み出した。 現在午後6時過ぎ。かれこれ3時間以上の間、店の台の前に座りっぱなしだったせいか、体中が悲鳴を上げている。 軽く体を解すと、ポケットの中からタバコを取り出して火をつける。 一服。 噴き出した煙は、微妙に夕暮れ時になりつつある空へと消えてゆく。あー、地球環境破壊してるよな〜と偽善的な感傷にふける。(※ タバコって、別に環境には悪くないらしいです By.448様) ジャスト、1分。俺はタバコを消。今日の土産である景品の袋を持ち上げると、車へと向かって歩き出す。 車へと乗車。何となくキーを差込み、エンジンをかけた後にラジオをつける。ラジオによるとどうやら今夜は雨らしい。あーあ、やだな、この前洗車したばっかなのに…と毒づくが、天候が変わるわけでもないということに思い当たり、思考停止。 エンジン、始動。車、発車。 バイパスを南北に抜ける国道を、真っ直ぐに走る。目指すは無論自宅。目的は夕飯。今日は多分姉貴も帰ってきてるはずだから、いつもよりも少し豪華だろう。 ま、今日取ったワインでも空けて、久しぶりに騒ぐとしようか…と、運転しながら考える。 と、フロントガラスにぽつぽつとだが、雨が降り始める。どうやらラジオは嘘を付かなかったらしい。洗車したばっかなのに…と思いながら、レベル1でワイパーを走らせる。 と、携帯が鳴った。俺は片手で携帯を拾い上げ、耳に当てる。そこから聞こえてくる母親らしき人物の声。内容は予想通り。とりあえずすぐ帰る事を伝えて、きる。警察様に見つかったら罰金だし、罰則だ。 それに、携帯をかけながら、雨の日の降り始めを運転して、事故らないって自信があるほど運転もまだうまくないしな。 とにかく、前に集中する。 と、俺はバイパスの向かい車線にあるとあるビルが目に入ってくる。 …あーあ、やなもん見たな…と、ちょっと心が苦しくなる。 その建物は予備校だ。俺も本来は、そこに通っているという設定だ。まあ、大体授業は80%がてら受けてるものの、最近はサボりがちだ。 何か、高校生のころが一番よかったなぁ…と、再び感傷にふける。 そんなに特別だったわけでもないし、格別楽しかったわけでもない。でも、あそこには仲間がいたし、それに何より将来を考えたりして、楽しかったし。 でも、それも過去のことだ。中学校の卒業のときとは比べ物にならないくらい、皆離れ離れになっちまった。それが当然というように、それが必然というように、それが常識だというように、俺たちはバラバラになった。 今では薄っぺらいメールすら、あんまりしなくなった。それは、俺一人だけ大学に落ちたってせいもあるけど、何より皆将来に満ちているからだ。 何となく、負い目を感じちまうんだよな、実際。 車を、走らせる。 俺だって、やるべきことは分かってる。俺にはやりたいことが無い以上、それを見つけるために、とにかく様々なものを知りたかった。自分のやるべきことを見つけたかった。 というか、見つけたい。 今の、現実に生きている人間のどのくらいが、自分がやるべきことを分かっているのだろう。どれだけの人間が、自分の道を作れているのだろう。どれだけの人間が、今の状況に満足しているのだろう。どれだけの、どれだけの生きとし生ける人間が。 …少なくとも、俺には無い。でも、やらなきゃいけないことはある。自分の中で、分かっているつもりなのだ。 優先順位。大切なもの、やるべきことの優先順番。 将来設計。自らの進むべき道を、考え、思考し、熟考し、推敲し、考慮し、吟味し、そして決定すること。 他人関係。自己責任。市民平等。疑惑欺瞞。曖昧模糊。そして何より、不安心配。 自分のことは、自分が一番判っていると思いながら、何も分かっていない。過信をしてしまう。 皆、自分のことで精一杯で、実際人のことなんか見ちゃいない。いや、何も今の世の中を批判しているわけじゃない。実際、俺もその一人だ。 バイパスを、左折する。雨は、すでに大降りになってきている。ワイパーのレベルを上げる。 現実に絶望しているわけでもない。かといって、希望を馳せている訳でもない。 何も、無い。 分からない。 俺たちは、まだ若すぎる。だから、俺もあんな場所に現実を逃避する。 そんな場所が、栄えているってこと、そのものがあるということが、俺は悔しくてたまらない。 自分の力じゃ何もできなくて。でも、実際に何かやらなきゃいけなくて。 考えても、答えなんて無くて。 終わりなんて無くて。死が終わりだろうが、俺はまだ生きるだろう。苦しんで、生きるだろう。 …閑話休題。思考が重くなってきた。 とにかく、俺は、今やるべきことから逃避している。逃げている。逃亡している。隠れている、隠遁している。それが、無性に悔しかった。 今というものが過去の積み重ねなら、未来というのは今の積み重ねに他ならない。 未来に希望を馳せたとしても、今が変わらなければ何も無いということが分かっていても、俺は何もできないのだ。何も、しないのだ。 自らが、根本的に変わることを望んでいないから。 と、住宅街へと入る。俺の家はすぐそこだ。 車庫を発見。バックで静かに車を入れる。雨の音が、止む。ワイパーととめて、キーを抜く。 車内は一瞬だが、静寂に包まれる。 俺は、助手席にあるソコで取ってきた袋と、投げて置いた携帯を手に取る。 閉めて、ロックをかける。 玄関の呼びベルを押す。間もなく、声が聞こえてくる。 玄関の向こうで慌てて開ける気配。
明日は、どっちに行こうかな。 |