300のお題シリーズ

お題『 柔らかい殻 』

ああ、不思議だね。この世の108元素では説明がつかないくらい。

 

拒絶は、棘である。

拒絶は相手を傷つけるだけの行為だ。それ以外の理由は無い。だから、私は自分に閉じこもった。

私が学校に行かなくなってから数日が過ぎた。今までの人生、考えてみれば馬鹿げた強制だった。小学校から中学校に上がり、その後高校へと上がった。そう、普通に、普通に。

その間、私は学校を休むことは無かった。病気でも学校へと向かった。だって、学校へ行かなくちゃ行けないから。それに、他の友達と会いたかった。それを考えると家にずっと寝ているなんて出来なかった。だから、保健室でもいいから、私は毎日学校へといった。それが当然であった、当たり前のことだと信じていたから。そう、当たり前、当たり前。

自分の中の思い込み、それこそが絶対であるから。

でも、それを私は破った。高校生になって初めて、破った。今まではどんなに辛い事があっても、そんなに嫌な事があっても、学校へは行っていた。それは今までの維持であり、私の意思であり、私の意地だった。

でも、私はそれを破った。

でも、世界は動いていた。

まるで私なんか気にしていないように、毎日朝が来れば夜も来た。ニュースではありきたりなバライティーから、深刻な話をしている評論家まで、いつもどおり、普通だった。

絶対を破っても、変化は無かった。私は、壊れた。

今まで自分が思ってきたもの全てが、無に帰した気がした。無意味になった気がした。今までの意地が、文字通り水泡と化した。水の泡、水の泡。

私は、世界の一人であることを、何億人かのうちの一人であることを、知覚し、理解し、無理やり思い知らされた。私は、何億分の一であるのだ。全は一、一は全。

私が変わったところで、世界は動いていたのだ。何食わぬ顔で。今までどおりの感じで。何も、何も変化が無く。それは、絶望でもあり、希望だった。

今までより世界が広く思えた。絶対の象徴であった学校が、無意味なものに思えて仕方なかった。数式の羅列は私を悩ますことは無くなったし、五段活用は無意味なものとなったし、豊臣秀吉は尊敬の対象になった。

それを考えると、毎日私の元へと来てくれる女子の憧れの対象の担任の先生も、心配の電話をしてきてくれるイッコ年下の彼氏も、メールで励ましてくれる女友達も皆、道化になった気がした。面白かった、楽しかった、可笑しかった、愉悦だった、快楽だった、極上の狂言で戯言だった。戯言、戯言。

この世は、何も無い。生まれて死んでゆくだけの世界だった。それは私がずっと思ってきたちっぽけな世界観でも、理解できた。

だから、私は自分から少し出てみた。毎日、街を歩いた。積極的に人と接するようになっていた。前より、自分が生き生きしているのを感じた。

今まで、絶対という殻の中で生活してきた私は、拒絶という棘を受けて、開花した。目覚めた。ここは、新世界、新天地だった。

嬉しかった。毎日が楽しかった。自分をやっと好きに成れた気がして、何となくだけど世界ってやつの見方が変わった気がした。

これは、進化だったのだろうか。私は、それからほとんどの日を放浪に費やした。

学校なんて、正直忘れていた。だから、私は私を励ましてくれる人々に対して笑って答えるのだ。勿論、向こうの人間は首を傾げるけど、私は彼らを覆っている”殻”が見えた。そして、それがとても愚かなことも。あ、ここでいう”愚か”っていうのは何も劣悪って意味じゃなくて、ちょっと可哀想だってことで、別にしたに見ているわけではない。

そう考えると、今までの自分の見方が180度変わった気がしたし、実際色々な事に対しての感じ方が変わった。

まるで、過去の自分が嘘のよう。まるで、御伽噺。まるで、狂言で、極上の戯言で、嘘の世界であったかのようだ。うその世界、装飾で飾られた劇場。プレイシアターで、ムービーシネマ。

私は、もうその世界へとは行かないだろう。絶対という殻に閉じこもっている世界には、もう行かないだろう。そう、それこそ絶対、絶対。

人の意見を聞けるようになった。少しだけ自分の意見を言えるようになった。

世界は、本当の意味で、変わった。変わってしまった。

だから、私は、昔を思い出して、しばしば、涙を流す。

あの頃を、思い出して、涙を流す。
 題名関係ありません。ごめんね。