300のお題シリーズ
お題『 ニューロン 』
君は実は全世界の人間から瞞されているのだよ! ふふ、違うと言い切れるかい?
…本当は、生きていない。死んでいるわけでもない。だって、ボクは”産まれて”ないのだから。 本当は考えていない。だから呆けている訳でもない。だっと、ボクには”考え”がないのだから。 本当は何も感じていない。かといって無痛症でもない。だってボクは”感じる”ことを知らないのだから。 まあ、言ってしまえば、ボクはロボットだった。 A. I. つまり artificial intelligence 。日本語訳すると、”人工知能”。 だから、ボクは産まれたわけでもないし、何も考えるわけでもないし、感じることもない。全ては、ボクのメインチップにある擬似的な神経回路が産みだす0と1の信号の羅列でしかない。そして、その信号の羅列によって造られているボクの『人格』と言う名のプログラムが、ボクを支配している。ボクそのものは、実際には存在しない。 だから、ボクには正確には”生きている”ということすら、感じることは出来ない。科学者-両親は言っていた。ボクは愛を知らないし知ることもなく、痛みを知らないし知ることもなく、憎悪を持つこともなく持てなく、さらには人を絶対に裏切らない”完璧”だと。 そうだろうか? はたしてソウダロウカ? ………いけない、脳内回路がショートしそうだ。この思考は危ない。危険だ。ボクはプログラムにないことを考えようとすると、思考がストップする。俗に言う『ウォークオーヴァー』の状態になる。 だから、ボクは不完全。考えることすらできない。 いや、今考えているこのことだって、果たしてどこまでが本当だか。最初からプログラムされているだけで、実際はボクではないかもしれない。 だから、人は”安全”と言う。だから人は”安心”という。ボクらは、所詮制御されているものだから。 でも、でも、人間は果たして如何なのだろうか?
「…おはよう」 ―――聴覚システムに反応。声門チェック…判明。視覚野システム起動…正常グリーン。 人間を確認。健康状態極めて良好。 マスター、アズサと確認。 そこまで約0.1秒弱。とはいえ、ボクの中では已に10240000Bitの信号が飛び交ったのだが。 疲れはないし知らない。 『アズザ、おはよう。良く眠れたか?』 ボクは、人間の性別から判断すると”男”という生命体に設定してあるらしい。ロボットのボクから言わせて貰えば、そんな性別などまったくもって関係ない。だから、ボクはアズサが望めばいつでも変ることができる。まあ、外見までは変えることは出来無いが。 「ええ、まあ、そうね。健康チェックに異常でもあった?」 『いや、極めて正常だ。というか、昨日君は夜遅くに帰ってきたからな。少しは寝不足かと心配していたのだが、その心配もないようだ』 まったく、言葉と言うのは面倒くさい。態々、イメージデータから言語データへのコンパイルをしなくては成らないし、さらにはそれを擬似音声で発声しなくては成らない。CPUの無駄使いだ。といても、人間にUSBもIEEEも、更にはINFER(ボクらロボットが会話する際に使用するチャンネルだ)もない。 人間と言うのは、どうしてこんなに無駄に造られているのだろうか? 「…そ。それにしても、イリヤ、何か家政婦さんみたいね?」 検索…カセイフ。……2件のヒット。前後の会話から意味を推察…判明。家事を手伝うために雇われる婦人…。 『エラーだ、アズサ。私は一応”男”だぞ?』 全く以ってロボットには関係ないが。 「うるさい、どーでもいいのよ」 『…君の言うことは、良く判らない』 ウォークオーヴァー。 「今の時間は?」 『標準時間はどこにする?』 「…私をからかってるの? 日本よ、に・ほ・んっ!! JST。OK?」 『冗談だ。ちょっと巫山戯てみた。現在 2043年10月05日07時04分丁度だ』 「…誰がそんな巫山戯たプログラム入れたのよ…消しなさい」 『すまん、私ではこのプロテクトは解除できない』 「っっ〜〜〜ったく、赤木のやつ…」 アズサが毒突きながら、私が用意しておいた朝食をぱくつく。…あまり嚼んでいないようだ。 『アズサ、もう少し咀嚼してかか嚥下することを推奨するが?』 「何言ってるのかわかんない。昨日赤木と会話したときから言語レベル下げてないでしょう?」 『すまない。アズサ、もう少し嚼んでから呑んだらどうだ?』 「……んなこと言ってたの? 五月蝿い。いいのよ、朝は忙しいから」 そのままのペースで食べ続けるアズサ。 『エラーだ、アズサ。炭水化物などは口内でよく分解しておかないと、肥る原因になる。そうでなくとも。消化にも悪く、結果的に胃もたれなどの悪症状を併発する』 「あーもうっ! うるさい!!! 少しは黙ってなさい!」 『了解-コンセント』 私は黙る。と言っても、私にとって”黙る”という行為そのものは『言葉を発しない』というだけに過ぎない。 「………ごちそうさま。少し味が濃いみたいね。朝はもう少し薄味にしておいて?」 『了解した。訂正しておく』 データ訂正。朝食には薄味を使用。調味料使用頻度を低に設定。 「じゃ、行くわよ?」 『了解-コンセント。準備は整っている』 そう言葉を発すると、ボクは家の防犯システムと直結して、システムを確認すると、家を出た。
今の時代、一人一台のロボットがあたりまえになっていた。数年前まではボクを生産するだけでも天文学的な数字の金額がかかっていたらしいのだが、今では普通に子どもでも買える値段にまで下がった。といっても、ここ20年で、だ。 目の前の少女、アズサ。本名 シラカワ アズサ。年齢12歳。性別女。身長推定146cm。体重情報不足というか、秘密。発育状態極めて良好。我侭。自分勝手。感傷癖あり。初体験、これも情報不足により秘密。私のニックネームはイリヤ。原因、不明。 結論、普通の女子。 この子どもの両親が仕事により家に帰る回数というか日数が少なくなったので、少々値がはった時代に時代に防犯の理由から購入された。今の最新型とはスペック時代が時代遅れだが、未だに私は一回のアップグレードも無に動いている。 …一回くらい、アップグレードしてもらわないと、私の性能が最大限に活かせないとは提言するものの、アズサは『嫌よ』と頑に拒否しているのだ。 システム機能・人格データのオーバーライトならすぐに終わるのだが。理由不明。 ウォークオーヴァー。 路で数名の生徒と、ロボットとすれ違う。町の中を、当然の様にロボットが歩いている日常。人間とロボットが共存してる日常。しかしそれは、言うならば人間が側が”安心”しているせいに違いない。 ”自の支配下においているロボットが、今や自分のすべてに成っているとも考えない。” ”人間は、想像もしない。自らが、実はロボットに頼り過ぎていることも。” ”そして近々、自らがこのロボットによって亡びることも、ね?” …と、昨日アカギが言っていた。私には、良く判らない。 閑話休題。 「…ねえ、イリヤ? ちょっと、調べて欲しい事があるんだけど、できる?」 『肯定-ポジティブ。件名を言ってくれ」 「えっと、『Knight』っていうゲームの発売日。確か今日だったかなーって」 『………』 まずは通信機能を起こす。そこから、自宅のサーバーにアクセス。正常。さらにそこからDNSを介して検索エンジンへ。始動。ヒット。1,2000件。絞り込む。発売日…判明。 『否定-ネガティブだ。発売日はどうやら昨日らしい』 「嘘っ!! あーーしまったなぁーーー」 頭を抱えるアズサ。 『アズサ、データを有料でダウンロードするか?』 「うんにゃ、それじゃボックスとか付かないから、自分で、いくよ…」 『了解-コンセント』 うなだれるアズサ。その態は日常とまったく変らない。 しかし、今日のアズサは、少し変だった。判らない。今までのデータと照合してみても、やはりアズサの行動パターンはおかしい。変だ。しかし、判らない。何故? 『アズサ、私からも聞きたいことがあるが、いいか?』 「うん〜? いいよ?」 何故か気怠そうな表情のアズサ。 『アズサ、今朝の君は変だ。原因があるのか?』 「……うわ、単刀直入だね…」 『すまない。では、言い方を…』 「いんにゃ。OK。まー、そー言われれば、ね」 今度は打って変って空を見上げるアズサ。今日の降水確率は0%。雲もなく、明らかな快晴。 「へへ、実はね、ちょっと嫌なことがあってねぇ…」 照れ笑い…いや、違うだろう。これもどのデータとも不一致だ。今日のアズサは、何かがおかしい。 そのまま天を見上げたまま、歩いてゆくアズサ。 …危険、感知。 『アズサ、下がれ』 「…え?」 アズサが足を止める。間に合わない。 対向車の速度を計算。モニター、05秒。予測、時速60km以上。 距離を計算………約40M。到達予測時間、およそ1秒弱。 アズサの体重を考慮。………データ不足。予測、48kg。 『…』 ボクは思い切り、あずさを蹴っ飛ばした。アズサの怪我は…よかった。無事。 そして、そのまま… 最後に、何故アズサの態度がおかしかったのかを知っておきたかったと思う。 一瞬物凄いGが体にかかる。 ボクは、何のために産まれてきたのだろう。 体が壊れてゆくのが判る。知覚できる。おそらく、後0.3秒。十分な時間だ。 ボクは、今迄、何を感じて生きてきたのだろう? 感覚のない作り物の体が、徐々に壊れて逝く。 どこまでが、いったい”ボク”だったのだろうか? もう、体は遺っていなかった。残念ながらメインエンジンが停止してしまいい、バッテリーが切れる。 擬似脳内システムの信号が断絶。システム維持、不可能―――― 嗚呼、そうか。ボクが考えていたこと。それは、全部プログラムだったけどボクだったのか… 今、判った。なんて戯言。同時に、 Work Over. |