300のお題シリーズ
お題『 ガムテープ 』
何もない。何もない。何もない。これ以上何かいるかい?
さてと。 片付けは、とりあえずは済んだかな? 私は、住み慣れた自分の部屋を見渡す。そこには、どこを見ても愛着が湧くものばかりだ。多分、次に此所に住むであろう人間が見たら、明らかに汚らしいという印象を持つであろう部屋の汚れや、キズなどは全て、私の思い出でもあった。 例えば、壁の疵。多分あれは弟と喧嘩して、そのときに投げた何かが当ってついた疵だろう。ずっとポスターを張って誰にもバレないようにしていたのだが、外してみると結構目立つ。 例えば、歪んだ窓帷(カーテン)レール。あれはまだはっきりと覚えている。親友の一人の少女とこの部屋で一緒に彼氏のことについて話していたとき、酒に酔った友人が体重のバランスを崩してカーテンによっかかった時の者だ。あの時は彼女、非道くもう仕訳けなさそうにしていたっけ。 例えば、目立つことはないのだけど、部屋の扉のところの凹み。毎日毎日、お父さんが私を朝起こすとき、私の部屋の前に掛かっているプレートで部屋を拍くものだから(ちなみに、そのプレートは先日真っ二つに破れたんだけど)その部分だけ妙に扉がボコボコしているのだ。 例えば、フローリングの汚点(しみ)であったり、天井にある無数の画鋲の後だった。 とにかく、ここは私の思い出の宝庫だった。そりゃそうだろう。だって、私が今までの18年間、ずっと部屋も変らずに住み続けた部屋なのだから。 そして、ここは最早自分の部屋ではなかった。あと数日もすれば、多分ここは他のヒトの部屋になるだろう。その時、一体誰によって使われるのかは分からないが、私ではないことは確かだ。 その人は、壁の疵をみて汚いと思うだろうし、歪んだカーテンレールを見て腹を立てるかもしれないし、扉のへこみをみて妙に思うかもしれない。それはそうだろう。その人は、私ではないのだ。 私の思い出を、分かるはずも無い。 私は基本的に部屋に人形だったり小物だったりを沢山置くヒトだった。お母さんは引っ越すときに捨てて行きなさい、と言っていたけどそんなことは絶対出来無いと、頑張ってダンボールに詰めたんだ。 だから、今、私の部屋はダンボールだらけなんだけどね…。はっきりいって、20や30は下らない員かもしれない数の大中小のダンボール。 今私はその一つ一つにガムテープで封をしていった。何となく、本当に一日くらいの間だけしか自分の手元から離れないのに、もう永遠に帰ってこないような気がする。まあ、勿論そんなことはないだろうけどね。 …運送会社の車が峠で事故らないことを、祈っておこうかな…。 私は最後のダンボールを詰め終わる。そして、再び、部屋を見渡す。と、私はまだダンボールに詰めていないものを発見する。 一冊の、アルバム…。それも、コレは、私にとって本当に大切なアルバム。でも、ここで捨ててしまおうと決めた、物だった。 そのアルバムを、手に取る。中を、覗く。そこには、私と列んで多勢の友人が写っていた。そして、どの写真にも、ある男のヒトが写っているんだけど…。 彼は、私の片思いの相手だった。 今迄すごした高校の3年間。一年生の、それも一学期からずっと片思いだった…。卒業式くらい告白しようかなって思ってたんだけど、私は思ったより度胸が無かったらしい。最後に一緒に遊んだのに、何も言えなかった。電話の番号すら、聞けなかった。 そのときを思い出して、ちょっと悲しくなるが、写真を捲っていくうちに楽しい思い出が一杯黄泉帰ってくるように、私の頭の中で再生される。 楽しかった、修学旅行。私は心の奥底で一緒の行動の班に成れますようにってお願いしてたんだっけ。で、実際叶っちゃったのだ。あの時は驚いた。 そして修学旅行の3日間は、はっきり言って上の空だった。後から思い出してみれば、一体私は何をしていたのだろう…って感じで。 あーあ、私の馬鹿。 他にも沢山ある。あのヒトの委員会に、私も参加したのだ。体育会の実行委員会。あの時は勇気を出して、あのヒトと一緒にやろうって、決めたんだった。 一緒に放課後まで作業したときは、まーあのヒトは怠いダルイって言ってたけど、私にとってはまさに天国みたいな感じだった。 それにしても、あのヒト、本当に面倒くさそうだったもんな…実際、仕事はほとんど私がやったし。それでも、毎日遅い時間まで付き合ってくれてたのは凄い嬉しかったけど。 …それも、終わったことなんだな〜。 もう私は大学生。今度は入試して受かった大学へ行くために、上京しなくちゃいけない。だから、私はこの地を去るんだよね。 だから、私はもう人生で多分二度と、彼と会えないだろうし。 ……いつまで引きずってても、仕方無いんだよね。 だから、私はこのアルバムを置いていこうと思ったんだ。だから、ダンボールにも詰めずに、置いてたんだ。でも、でも。
もう少しくらい、いい………よね?
私は手元にあったダンボールのガムテープを剥がし始めたのだった。 |