300のお題シリーズ
お題『 電光掲示板 』
何がしたいのって? 何もしたくないんじゃないかな?
私は、目の前の電光掲示板を見つめる。他にも沢山の人が、その掲示板を見つめている。辺りの空気がしーんとなって、広がっていくみたいな、そんな感じだ。 パッと、電光掲示板に沢山の数字が灯る。大体その10秒後ぐらい、室内は歓声につつまれた。いや歓声というのは嘘だ。実際は泣き声も含まれていたのだから。 私は自分が片手に持っている紙にプリントされている“10345”という数字を索す。 『1…0…3……45っ!!』 やった! あった! 私の番号が電光掲示板に載っていた。何回も、何回も見直す。うん…うん…間違いないよね? 私は、あたりの、わーっていう歓声の中、一人だけ身体の体温が冷めていくのがわかった。 中には泣きじゃくっているものもいる。それも、仕方無いだろう。おそらくこの学校に入るため、かなりの努力をしてきたのだから。 受験戦争に負けたものは、死ぬも同然なのだから。 ”これで、これで私ももう少し………” 「おーっす!!」 どんっと、私は背中を叩かれる。びっくりして、前のめりになりながらも、何とか耐える。そして、その叩いた人物を睨みつけるような感じで見る。本当に痛かったんだから…前の人にぶつかっちゃったし。 「あ…ご、ごめん。あんまり嬉しかったからつい…」 「……もう、興奮しすぎだよ」 「ごめんって! でさ、結果は!??」 目の前の少女は、チャームポイント(自称)のポニーテールと共に跳ね回りながら聞いてくる。 あーあ、回りの人が迷惑してるってば… 「えへへ、合っ格っっ!」 「嘘ー、本当?? マジで??」 「ホント。そっちこそ、どうなの?」 「ん〜どっちだと思う?」 私はちょっと考えてから、 「不合格」 「そーなんだよぉ〜って、なわけあるかぃ!」 パコっと叩かれる。私は少し笑って、 「うん、オメデト。また一緒だね。ま、命拾いってことかな?」 「そーだねー、ここまで来ると神様に感謝だよね〜」 先ほどから比べて、さらに跳ね回る友人少女A。 「……とりあえず、近場の茶店にでも、くり出そうか?」 私は、とりあえずここを離れることにした。迷惑だし。 それに正直、人の辛そうな顔は、見たくない。
「えっと、今からカラオケいこーよ?」 唐突に、目の前の少女が言い出す。 今私達たちがいる場所は、例の学校の近くの喫茶店。先ほどから店内は、受験生らしき人間とその両親とで賑わっている。 合格発表が午前中で、午後からは合格者説明会。だから私達は家にも帰らずにこうやって話している。 「バーカ。今から説明会だよ?」 「えへへ、エスケープしようよ」 「だーめ。色々あるの。制服とか。メイジョウの制服着たく無いの??」 「あー、そっかぁ〜。その魅力からは逃げれないよね〜」 机の上に突っ伏して弛れる友人。最初からそんなこと言わなければいいのに。 「ん? あ、柏じゃん。隣、いい?」 と、私達のテーブルの横に2人の男子が来る。名前は、確かユージとケンジだったかな? 私達の学校では名の通った優等生だ。 「あ、ユー君とケンちゃん〜! うん、勿論、いいよね?」 私に向かって聞いてくる友人。 「うん、別に構わないけど?」 てか、断れる訳無いじゃない…こんな状況で。と、ちょっと内心思う。 2人の男子が向かい会うように座る。私の横にはケンジという人が座った。だが、私には見向きもせずに目の前の少女に話しかけている。 どうやら、愛がモテモテっていうのは、嘘じゃないだろう。ちょっと、嫉妬。だって2人とも、滅茶苦茶に格好良いし。 「ねえ、そういえばさ…君は、どうして明浄に?」 と、行き成り話しかけられる。黙って店の外を見ていたのだが、その言葉で振り返る。 「…私、草葉 美紀。柏 愛の友人です」 初対面だから、一応自己紹介。 「あ、ごめん。うん、俺、望月 賢二。んで、コイツは佐々岡 裕二」 「うん、知ってる。双子<ツインズ>って結構有名だし」 「うわー、その仇名、覚えないでくれ…明浄でもソレ言われたら、俺、マジで没むから…」 と、向かい側に座っていた佐々岡 裕二って人が言う。 「ん〜でもさ、ユー君、どっちにしろ、高嶺高から明浄の人って、結構いるから、無駄じゃないの?」 「いや、ユージはさ、その語源を覚えられるのがいやなんだよな?」 うむ…と、オレンジジュースをボコボコ(って、未だにする人も珍しいが)しながら答えるユージくん。 そのまま私を見ながらケンジが喋る。 「ツインズの語源、知ってる?」 「ん? えっと、聞いた話によると、2人とも名前に”二”がついてるから、じゃなかったの?」 「ちがうよーミッキ。実はね、この2人、同棲してたんだよ〜!」 大声でアイが言う。私が静止する間もなく、その声は店内に韻いた。数人の人間がこちらを偵うように見る。 やめて、アイ…お願いだからね。 「…えっと、だから、『兄弟<ブラザーズ>』って最初は呼ばれてたんだけど、同学年だから変だねってことになって…」 少し反省を踏まえてトーンを落とすアイ。 「…それで結局『双子<ツインズ>』って訳。ま、でもさ、あれは、マジで偶然でね…」 ユージが苦笑しながら喋る。 「同棲じゃねーっての。適々、俺がコイツの家に遊びに行ってただけでさ…」 ちらっと、時計を見る。そろそろ、時間もヤバイ。少し早めに行っておくのが良いだろう。 「…それじゃ、そろそろ出ない? あと20分くらいで始まるし」 「あ、うん、そうだねー。ユー君とケンちゃんは、バイバイ?」 「…………いや、俺らも合格したけどな…な、ユージ?」 まあ、そうだろう。愛、流石は鈍い女bP。『恋人に出来無いアイドルナンバー1』の座は、まだ健在のようだ。 「ああ。ま、とりあえずは。高嶺高から落ちた奴って、俺まだ聞いてないしな」 「そっか〜。だったら、またあの時と同じ<チーム>のメンバーが揃うってことだね!!」 と、明るく言う愛。その言葉に、少しだけ他の2人の表情が陰る。 <チーム>。それは、はっきり言って今の子ども達にとっては苦い過去であり、経験。 ……アイも、悪気があって言ってるわけじゃないんだろうけどね。実際、愛は補助だったから実際に戦ってないわけだし。
明浄学院の正式名称『私立 明浄 戦闘勁鋭育成 学院』。 2020年から始まった第三次世界大戦の兵士官を育成する学校というわけだ。 兵士ではなく、それを指導する人間を育成する学校だから。 つまり、それって他の一般兵士たちよりも私達の死期が遅くなったというだけの違い。 いつかは、私も………。 …。 でも今は、今は文字通り、私達は”受験戦争と生き抜い”た。 これで、私ももう少し生きれるのかな? |