300のお題シリーズ
お題『 菜の花 』
『安い、早い、沢山が自慢のラーメン。ただしファミレスで』みたいな?
辺りは、汚れていた。空は曇り、河は流れることもなく停まり、人間は相変らず排気ガスを出す金属の物体で町を我が物顔で謳歌する。 多くの生命体を殺しその上に自分が生きているというのが事実なのに、実際に生物の死を見れば同情する身勝手な思考。 自分だけの星ではないのに自分達だけで破壊しておきながら、それを『危険だ』『危うい』とクーラーが効いた部屋で電気製品の箱の中から訴えている意味不明な思考。 世界では、多くの人間が生きる事すら、むしろ生れることすら叶わないでいるのにも関わらず、手を差し伸べようともしない自分主体の思考。 何もかもが、汚い。こんなに汚いと、綺麗なことだって黒く見えてくる。 人へと親切は、ようは優越感を感じているためではないのか? 人を先導して行く事は、ようは相手を自分が良いように動かしたいと思っているためではないか? 全ての善行は、自分のパーソナリティとステータスのためではないのか? そんな、汚い世界。 ボクは歩いていた。 道を。土の上でも別に歩けるのにその上に態々混凝土を乗せた平坦な道路。その道路は夏には熱く、冬には寒い。はっきりいって、無駄。 そんな道をボクは歩きながら、景色を見る。景色なんて綺麗なものではない。いうなれば、人の悪行を見ているといってもいい。 そこから見える景色は、馬鹿馬鹿しい。一体どこまで伸びているのか不明なビル。その影になってじめじめと気持ち悪い道路。空気は淀んでおり、風は強い。 そこにいるはずの無い人間が、まるで寿司詰め状態で生活する。環境を破壊しながら、人を蝕みながら、確実に”人口森”は成長する。 最悪の、場所。歪んだ場所。奇妙な場所。 そんな場所を、少し遠めに見つめる。今目の前に流れている河だって、今や誰も泳ごう何て人間はいない。そんなことをしたら、身体を幾ら洗ったって臭い匂いが取れないし、何より体調を崩すだろうし。 ボクは歩いている、と、花を践んだ。足の裏に、少しだけ異物感。 見てみると、それは”花”だった。名も無い、いや名はあるんだろうけど、識らない花。そして、今ボクが践んだことによって命を絶たれようとしている花。 ボクはそのまま、何も無かったかのように歩き始めた。
「ただいま…」 声をかけるが、その声に返答してくれるのは、全ての家事をやってくれている自動ロボット。 ボクはそのロボットに今日の主なニュースを聞いて、そして自分の部屋に向かう。机は向かわずに、パソコンの電源をつける。 すぐさまPCは起動する。習慣となっているHPを巡り、適当に飯を食べながらチャットする。その瞬間だけ、ボクは『生きている』ことを実感する。 パソコンの中に写った世界は綺麗だ。すべてにはアドレスがあり、全てはレジストリの中整頓されており、一定の規則にしたがって動いている。まさに、綺麗な世界。矛盾の無い世界。 その世界こそボクにとってリアルだった。現実の世界は、ただ汚れてるだけの汚らしい世界。
聖>>そういえば、今日、家の近くで殺人事件があったよ? ミファ>>へー、恐いねー 零℃>>…まあ、ワシには関係ないけどな 聖>>うわー、ひでー>レイ ミファ>>そーだよー、もしかしたらヒジリ殺されちゃうかもしれないんだよ?>レイ 聖>>wwwありえない ミファ>>え、そうかな? 零℃>>ま、殺人事件なんて今更って感じ 聖>>まー、そーだけどさ ミファ>>ええ? 2人とも殺人事件にあったことあるの?>2人 零℃>>? 質問の意味がわからん 聖>>?? ミファ>>あー、見たことあるの? って…(ゴメゴメ 零℃>>あ、うん、あ、そろそろ飯っぽい 聖>>お母さんか〜いいよなー、ウチはロボットだぞ ミファ>>そうでもないよ? 母親ってウザいし! 零℃>>んじゃ、そろそろオチ…。 聖>>マタネー ミファ>>マタネー 零℃さんが退室されました。 ……………
こんな感じで会話が続いてゆく。ボクのH.N.、いや本当の名前は『聖』だ。この世界の名前が、嘘の名前なのだ。 適当な時間でチャット終え、色々やってから、寝ることにする。 明日は、朝、眼が醒めない事を願って。
残念なことに、ボクはちゃんと朝眼が醒めて、学校へ行き、意味不明な知識をノートにとって、帰っていた。 また、例の土瀝青の上を歩く。いつもと同じ、何も感じない。身近で殺人事件が起きてようが誰が死のうが、正直『へー、そうなんだ』くらいにしか思わない。自分が殺されるのであれば、それは願っても無い機会だ。 ボクは、いつでも死を望んでいる。この世界から開放されることを、望んでいる。 と、ボクは昨日と同じ位置にきたところで、足元を見る。 そこにあったのは、昨日の花。 綺麗な、黄色に咲いた、花。黒い世界の中、たったひとつだけ、ぼやけている世界の中ではっきりと、見える花。 その花は、昨日践んだ花だろう。すこしだけ、花びらがしおれており、汚れている。 …が、ちゃんと太陽を向いていた。空を向いていた。 上に向かって、ちゃんとまっすぐと、立っていた。 生きていた。昨日ボクが践んだのに、それでもちゃんと生き続けていた。 必死に、生きようとしていた。 ボクは生れて初めて、この世界の綺麗なものに触れて気がした。 ボクはソレをずっと眺めながら、 ボクはその名も知らない菜の花に、 心の中で感謝した。 |