300のお題シリーズ

お題『 手を繋ぐ 』

無能な人間は無能なことしか出来無いけど、有能な人間が使えば無能ではなくなるだろ。

 

世界は、恐らく間違っているのだろう。

多分世界って奴は、ボクが生まれたそのときから已に狂っていて、そして世界と言うものの中に生まれた俺達は『間違ったもの』を『正しいもの』として認識するように教育されてきただけで、絶対世の中は間違いだらけだと思う。

神がグログラマーだったとしたら、恐らくそんな人間に誰も依頼などしない。依頼する内容は、完全な世界のプログラミングだからだ。

俺はそんな、周りの虚偽の情報には振り回されるような無能な事はしない。絶えず、全体を見通す。考え、そして考えない者を区別する。

常に自らは上に居る。自分より上にいる人間がいたなら、ボクが見下ろせるようになるまで、ボクが大きくなってやるか、もしくは上の人間を引きずり下ろす。

ボクは、ボクだけのものだからだ。誰にも渡さないし、渡してやるつもりもない。弱みなど絶対見せないし、強きものに媚るような真似もしない。

絶えず一人。いつも、一人でやってきた。

だから、目の前にあるエラーを見ると、俺は普通の凡人どもとは違い、気がつかないフリはしてられないんだ。

目の前で、泣いている子ども。ここは駅。子どもは荷物こそ持っていないが、明らかに徘徊っている様子。

おそらく、迷子といった奴だろう。

その子どもを見て見ぬ振りする凡人ども。誰も、手を差し伸べようとはしない。でも、ここでこの子どもを何とかしなければ、エラーを何とかしなければ、ボクはボクでは無くなってしまう。

それに、今はボクの事を知っている人間もいないことだ。多少、イメージに合わないことをしても、問題は無い。

だからボクは、前の前の子どもに訊く。

「何で泣いている?」

と。こっちが子どもの言葉に合せてやる事はしない。その必要性を感じないし、したところで無駄だ。やはり、区別ははっきりさせておくべきだろう。

「……」

俺のことを、数秒不可思議な者を見るような視線で見たあとに、泣いていた子どもははっきりと言った。

「……迷ったの」

「それくらいわかる。問題は、お前が帰る場所が分からないのか、人を索しているのかと言うことだ」

「……?」

俺の言葉が難しかったのか、それともただ単にこういう状況で混乱しているのか定かでは無いが、子どもは俺の事を再び数秒間見る。

「…お母さん、探してる」

「よし。だが、母親もお前を探している。こういう状況では、お前が勝手に歩き回るのは逆効果だ。覚えておくといい」

俺はそういうと、すっと立ち上がり、歩き出す。

数歩歩いて、止まる。

俺は子どもの方を見る。

「ついて来い。まあ、ついてこないのもお前の意思だがな」

俺はそれだけ言うと、歩き出した。

背後で、微かに子どもが動き出す気配がした。

 

はやり、俺は無能な人間は嫌いだ。

無能な人間は、自分が無能であるというコトにまず気づいていないのも腹が立つが、奴等は大半何も考えていないのだ。

自分で考えるというコトをしない、それが無能の第一条件なのだ。

逆に有能な人間は、しっかりと考えている。回りに流されることはない。逆に流されていたとして、それは考えた結果なのだ。無能な人間は、考えずにただ何となく…と流される。

こういう場合もそうだ。

子どもを見て『可哀想』までは思いつくのだが、そこからが無い。どうすべきか、何をすべきかが分からないのだ。だから、見て見ぬ振りをする。

下手な興味を抱くくらいなら、最初からそれは見ないですごしたほうがいい。そして、一回見たからにはその状況を打破すべく考えるのだ。

それが、有能な人間だ。真に有能な人間は、「面倒くさい」などとは思わない。解決方法を考え、そしてそれを実行する過程の中に、それを実行する人間の感情の入り込む余地など、最初から無いのだ。

だから、俺はそういう、何も考えず、下手に『私世界を知っています』といった雰囲気の人間が大嫌いだ。第一、お前らは井の中の蛙にすらなりきれて居ない、でき損ないだと言うのに。

無知の智とは、よく言ったものだ。

「お母さん、心配してるかな…」

子どもが俺に聞いてくる。別に、俺は答えなくてもいいのだが、子どもがもし俺が答えないと不安そうな表情で俺をみてくる。

不可解この上ないが、一応反応しておくことにした。まあ、ボクと会話をするくらいだったら、回りを少しでも見渡して情報を集めようとは思わないのだろうか。

「している。そして、それはお前の責任だ。同時に、母親の責任でもある」

「……ごめんなさい、お兄さん…」

「謝らずともいい。だが、そう思うならこれから少しでも俺に協力しろ。自分の意思で行動し、そして自分で少しは努力をしろ」

「…ごめんなさい…」

「…………」

まったく不可解極まりない。この子どもの思考回路は、未だ未熟であるという条件を差し引いても、意味が分からない。だが、この子どもが無能となるか有能となるかは、この子どもがこれから通って行く過程で、きまることだ。

同時に、出逢った人間にも、全ての人間に責任がある。この子どもを、ちゃんと育てて行く責任が。そして、責任を放棄する奴も同時に、無能な人間だ。有能な人間は、責任を貸されれば、それに等しい答えを返し、そして同じ分だけの報酬を貰う。それが、有能な人間だ。

「…あっ!!」

唐突に、

「…?」

ぎゅっと、俺の手が捕まれたかと思うと、

「お母さんっ!!」

俺の体が前に傾いた。

子どもが俺の手を握り、俺の事を引っ張っているのだ。

人ごみの先を見れば、何やら一人の、まだ若い女がこちらを見て手を振っていた。

俺は子どもに連れられるまま、駅を走る。別に走らずとも、ゆっくりと歩いていっても全く支障はないのだろうが、この目の前の子どもは俺を連れて走る。

「お母さん!!」

子どもが女の前まで走ると、思いっきり母親と思しき人間に抱きつく。

母親は俺に何度も頭を下げて謝る。俺はその言葉に何も言わずに、立ち去ろうとした時、

「謝らないで、お母さん。ボクは、あのお兄ちゃんをここまで自分で連れてきたんだから」

「………」

空気が固まった。母親は、自分の息子がとんでもないことを言ったと思ったのだろう。今度は転じて、御免なさいと、謝っていた。

俺は、笑っていた。

「ああ、確かにお前は、自分の足で俺をここまで引っ張ってきた。立派なことだ」

「えへへ」

子どもは笑っていた。俺も笑っていた。何やら、妙に気分が良かった。

 

偶には、人に引っ張られて歩くのも、悪くないなと、ふと思った。
こんな人間が小説の主人公………(汗