300のお題シリーズ

お題『 年中無休 』

久しぶりに始めるかな、随分とやってなかったことを。

 

いきなりだが、私は不良だと思う。

自分自身で思うだけで、回りの人間がどう認識しているのかは知らないけど、でも、自分自身で私は不良だと思っているのだから、そう言う事は何の問題もはいはずである。

ということで、私は不良だと思う。

「………」

ふと、見上げた星空、いや、正確には星なんてまったく見えない暗黒の空を見上げる。

星なんか無い。あたりの電気、そして私の真上で煌々と、一体何をそんなに自己主張したいの分からない看板が、その星の光を奪っていた。

目線を、下に。

目の前を通る大きな通り、そこを忙しげに何台もの車が通り過ぎる。それをぼーっと、何をするわけでもなく眺めている私。そして私の背後に、まるで私を守るように聳え立っている巨大な物体。

というより、建物。それに、この建物が私を守ってくれているというより、私を拒絶したいがために光りを24時間放ち続けているのかもしれないけど。

軽い音。タイヤとアスファルトが軽くこすれる音がして、目の前の十メートルほど前に車が止まる。

扉には、『臣影市警察』とある。降りてくる、ツーマンセル(二人一組)の警察官。

(あ〜あ、また、かぁ…)

私は手に持っていたタバコを何気ない仕草でゴミ箱に捨てると、ゆっくりと二人組みの方向へと歩いていった。

 

「昨日、学校休んだでしょう?」

朝。私は眠たい眼をこすりながら、母親のそんな一言を無視した。

「………理恵、聞いてるの?」

「聞いてない」

「…」

はぁと、明らかにあきれての嘆息、というよりは私に見せ付けるための嘆息。私はそんな明らかに私に対する挑発みたいなことにも、反応しない。

「………学校、行きなさいよ」

それだけ母親は言うと、私の前に無言でお茶碗を差し出す。私はそれを無言で食べると、そのまま自分の部屋へとあがっていった。

その後ろを、母が心配そうに見つめている視線が、追ってきていた。

 

―――うざったい。

 

「あれぇ? 理恵、タバコなんて吸ったっけぇ?」

昼。私は不良友達の3人と適当に町をブラブラしながら、タバコに火をつけたことで友達が聞いてきた。

ちなみに、私にとってタバコは初めて。

「ううん、でも、吸ってみたいな〜ってね」

「やめなやめなぁ健康に悪いよぉ〜」

「あはははは、香が言うなっての!!」

「…確かに、ね。一週間でワン・カートン無くなるほどのヘビースモーカーさんがさぁ〜」

「う、うるさいなぁぁ!! 私の体だからいいじゃないかぁ!!」

「なら、私も自分の体だからいいよね?」

「う……むぅ…」

「…理恵の勝ち、だね」

馬鹿騒ぎする。明らかに女子高生風の女の子が目の前でタバコを吸っていても、目の前の叔父さんは何も言わない。

それどころか、私たちを”買おう”とするおじさんすらいる。

……まったく、世の中崩れてる…。

そう思って思いっきりタバコを肺に吸い込む……。

「!? ………こはっ…ぐ…うぅ…」

気持ち悪くなる。その様子を見てさらに笑う香と梓、それに鈴。

私はむせ返りながらも、苦しそうな顔はしていたが、心は笑っていた。

 

―――これが、仲間、なんだろうな。

 

その夜。

私はまたコンビニの前で座っていた。

昼間、仲良しな子と一緒に遊んで、夜はこうやってコンビニで座って、何をするわけでもなくぼーっとしている。

―――はあ、最悪…。

自分が、嫌いだった。誰がこの世で一番嫌いかというと、自分自身以外にはいないくらい、嫌いだった。

不良と言っておきながら、昼間友達には『学校なんかどうでもいい』と言っておきながら、今日はタバコを吸っていない私が嫌いだった。

警察の職質にもなれた。でも、警察はどうせ私の名前を聞いた途端に、どうせそれ以上何もいえなくなる。

何かおもむろに悲しげな顔を私に向けると、そのまま権力に屈した犬のように私の前から去っていく。

私を、見ていない。

誰も私を見ていない。結局はそんなモンなのだ。

この前まで私は成績優秀な学生だった。通っていた学校も、全国の女子中学生が目標として、そして毎年涙が流れるような学校だ。

そんな学校の、しかも主席。そして、そんな世界を、毎日当たり前に受け入れていた日々…。

そして今は、最近タバコを初め、学校もサボり、毎日こうやってコンビニの前にしかいない。

そんな自分が嫌だった。

コンビニが唯一の居場所、私を年中無休で受け入れてくれる場所、そんな現実も嫌だった。

「はぁ……」

私はソ空を見上げる。

雲ひとつ無い、でも、星も無い空。

『―指令―座標……にて―……が…』

電波が、私の頭に届く。

はぁっと、ゆっくりと溜め息をついた。

ゆっくりと立ち上がる。私は自分の制服を一目見ると、なんだか悲しくなる。

大きく、背中から突起物が、一瞬で何本も生える。いや、生えていたのを開いたのだが、後ろから見ると生えたように見えるのだ。

その突起物は無機質のようで無機質ではなく、有機物のようで有機物ではない。

この世のどんなものを形容して当てはめたところで当てはまらない。

それが形容詞、ソンなモノ。

制服が、一瞬で裂ける。これで何着目だろう、そんなことを漠然と思う。

 

―――仕方ない。

そう、思いたい。

この世界が壊れたのも、

きっとお母さんが溜め息をつくようになったのも、

私がこんなに自分を嫌いになったのも、

そして、私がこうやって『最終兵器』になったのも。

きっと、仕方の無いこと、なのだろう、と。

折角の休みだったのに、折角、ひさしぶりに町に帰って来れたのに……。

お母さんは悲しんでいるだろうか、多分悲しんでいるだろう。あの人は優しいから。

だから、私は家にいたくなかったのだから。

 

私はそのまま空高くへ飛び上がる。一瞬で、高く、高く、高く―――。

眼下には、小さくなった私の居場所。

でも、本当の居場所は―――きっと、ココ。

光りが、満ちた。

最終兵器彼女。年中無休なのはコンビにだけじゃないってね(笑

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