300のお題シリーズ
お題『 携帯電話 』
そろそろ休む? 動き続けてる意味もないし?
俺の塾、共学社は大体6時に始まる。 中学校自体は既に5時ごろ終わっているから、それから塾が始まるまでは基本的に自由。 まあ、対外の人間は駄弁ったり、この前の模試のことを話したりしていた。 俺も勿論、その中の一人にばっちり入っちゃってるわけだけれども? 「でさぁ〜この前のテストどうだったよ?」 俺の知人の一人が俺の机に席を寄せながら聞いてくる。それに便乗してもう一人の知人も俺の隣の机に腰掛けた。 「……どうだったって…分かるわけないだろ、発表されてないんだから」 「ば〜か、手ごたえだよ、”てごたえ”」 椅子を反転させ、俺の方向に向いている髪が短いほうの知人―トモヤというらしい。漢字は知らない―が言った。 「……分からなかった問題は、なかたった、かな?」 とりあえずそれだけ言っておく。 「流石、某南校の人は違うね〜」 席に腰掛けている髪が長い知人―名前は確か三上 俊也。何回か見たことがある―が言った。 「それ”某”の用法間違ってるからな。それと、塾じゃ学校関係ないだろ?」 「あるある、お〜あり。ったくさぁ、俺らみたいな学校だったら、勉強ができる奴なんかほんの一握りじゃん? だからさ、ほら、なんつーの? 雰囲気? がやっぱ違うわけよ〜。俺らの学校馬鹿だから、テスト前とかに普通に『遊びに行こうぜ〜』みたいなノリなんだぞ??」 「ま、トモヤに一票だな。確かに北はおかしい」 「……友達選んだほうがいいと思うが……」 「まあね」「楽しくはあるが、な」 二人の友達が同意する。 と、そこで教室の扉が開き、先生が教室内に入ってきた。手には髪束。 教室内から『うわ〜〜』とか『マじかよ!』といった悲鳴が聞こえる。 ……くだらない。今日テストが返って来るのは知ってたはずだし、そもそも結果を見るのが嫌になるくらいなら勉強したほうがいいと思うのだが。 何となく、クラスメートのそんな悲鳴を聞くのが嫌になって窓際を眺めると、 ふと、目が合った。 すっと通ってる目と鼻。無口に結ばれた口元に、私立の女子学の藍色の制服に身を包んだ柏 桔梗だった。しかも桔梗は俺と目を合わせても動じる気配がない。 じっと、見詰め合う二人…。何気なく振り向いた手前、何となく気まずいのは俺だった。 しかし、それを気にした様子もない柏。じっと俺を無表情のまま見つめてくる。 たっぷり5秒は見詰め合っただろうか。次に柏が『何見てんの?』と言おうというモーションが見えた瞬間、俺は即座に顔をそらした。 ……柏の口は、とてつもなく悪い。とてつもなく悪い。完全美形にして、性格破綻者、それが柏桔梗だ。 前を向く。あくまで自然に。内心は悟られないように……。 …何、恥ずかしがってんだ…俺は…。直ぐに視線をそらしたら明らかに不自然だろう…俺は窓を見ようとしたんだよ、窓を…。 言い聞かす。 しかし、実際完全美形こと柏桔梗と目を合わせることができる男子など、いるはずがないのだ。 勿論、俺は洩れなくその中の一人だ。
結果が発表された。 テストの結果が配られたのだから、俺らの塾では当然のことのように、上位30人が張り出される。 大体いつもの面々。ソレが微妙に入れ替わりながら15位まで。そして、そこからは”今回頑張った生徒”らの名前がある。 今回は三上 俊也の名前はなかった。その代わり、何人か同じ学校の人間が入っているのに気づく。 「意外に俺の学校、頑張ってるな〜」 何となく、独り言。 「何がだよ〜ったくさぁ、毎回1〜2位をキープしといて、何その言い草?」 独り言は、拾われ会話になった。 横にたまたま立っていたやたらと元気な女子―名をサラという。風変わりな名前だ。本名かどうかは知らない―が話かけてくる。 「友達は下から上がってくるからね。しかも、今回はたまたま国語が簡単だったからね」 「…はぁ〜やっぱり頭がいい人がいうことは違うわ〜」 そういうとサラは『ほな、さいなら』というと去っていく。出発する前、何かしらのジェスチャー―流行なのか?―をしたが理解できなかった。 塾前の掲示板、残っているのは数人だった。他の人間はおそらく看板など見なくても欄外を知っている生徒か、それとも順位に興味がない生徒かどちらかだろう。 …後者の可能性は、限りなくゼロに近いが。 そのとき、背後で声。 「あれ? キョン、看板見ないの?」 何となく桔梗の名前に反応して振り向いてしまう。 底には完全美形と、もう一人、同じ制服を着た女子学生がいた。 「見ない。興味ない」 「うわっ……」 ……訂正。可能性はゼロではない。 自分の持論に真っ向から反対され、尚且つ自分は看板を見ている一人なので何となく少し恥ずかしい気持ちになる。 と、ぴたりと立ち止まる。俺も柏を見たままとまった。女子学生が『え?』と言って俺のほうを振り向いた。 「?」 なんだか納得する女子生徒。 俺は何がなんだか分からずに首を傾げる。しかし、桔梗は俺のほうを振り返ることなく、歩いていってしまう。 女子生徒が『ばいばい』と手を俺に振り、そのまま桔梗のほうへとついていった。 ……何なんだ? ポケットの携帯が、いきなり振動した。 びくりっと体を少し震わせ、携帯をすぐさま開く。メールだった。 送信者は、『篠坂 遊里』。知らない名前だ。 …きっと、勝手に登録されたのだろう……宿泊合宿中などによく携帯電話に、気づいたら人のアドレスが増えていることが有る。 というか、勝手に人の携帯を触って、尚且つ自分の情報を入れるのは、プライバシーの侵害なんだかプライパシーの安売りなのかよく分からない行為だ。 だが、多々、ある、おそらくこの前の時だろう。 メールをとりあえず読む。 『ゆーりです。成績1位おめでと☆キョンが悔しがってたよ〜〜(-_-;;)明日あたり、復讐されないようにね〜オヤスミ☆』 ……先ほどの女子生徒だろうか? 定かではないが、おそらくそうだと推定。 それにしても、篠坂遊里……見たことない名前だ。 俺はそのメールを”拒否ボックス”に入れると、アドレス自体を消去する。 「……柏が、悔しがってた?」 にしても、自分で言ってありえないと思う。意味が分からない。 今回の俺の順位は2位で、柏は欄外。悔しがるも何も、柏は俺と接戦してすらいないのだ。 少なくとも、今まで柏の名前をリストで見たことはない。 なのにどうして悔しがるのか、意味が分からないが……。 だが、俺は携帯電話を持ったまま、立ち尽くしているのだった。
その翌日。柏は塾を休んだ。 原因は不明。だが、専ら『家庭の事情だろう』という話で落ち着いていた。 だが、三度”篠坂遊里”からメールが届き『圭一君のせいだからね!!(`∇´)何でメールしなかったのさ!(´ε`)』と来た。 ……意味が、分からない。それに、俺と柏は友達ですら、ないのだ。 とりあえず言えることは、この小説何のためにあるんだろう? |