300のお題シリーズ
お題『 真昼の月 』
戦況を動かせ。止めるな。8:2で劣勢で停滞してるなら9:1にしてでも戦況を動かし続けろ(ビートのディシプリン
Side.2 )
「例えば、だ。ユス?」 とう、とある男は言った。 「何じゃ、師匠?」 その言葉を拾ったのは、その部屋の真ん中でお茶を暢気に飲んでいた一人の少女だった。 部屋は畳張りの和風な個室。中心には炬燵がどんとおいてあり、そこには二人の人間が居た。 畳張りなため掘り炬燵ではないが、まあ畳自体が保温効果があるため、炬燵に入っている以上、寒さを感じることはない。 障子で仕切られている室内。外ではおそらく雪でも降っているのだろうか。 空気が、鋭かった。 「ふむ。例えば、今は昼だ。世間一般では昼と定義されているな?」 「…また、イキナリ素っ頓狂なことを言い始めるな…」 「話の腰を折るな、直径。今いいとこなんだ」 第三者が会話に介入したことで、男は不快感をおもむろに露にする。 話してである男の名は神ノ門 無然。今は簡単な着物に甚平を羽織っており、なんとも部屋の雰囲気とマッチしていた。 「師匠、別にいいではないか。アヤもにも話してやってくれても。どうせ下らん話の類なのだろう?」 「……下らんと話す前から決め付けるのはいかがな物か…まあ、この空間に同時に存在している以上、空気の振動を無理やりにでも捻じ曲げない限り話は聞こえるのだからそれを断る必要はあるまいよ?」 「あ〜じゃあ、俺、兄の話聞かないから安心して梳柚に話してやってくれ」 と、安益と呼ばれた男は炬燵に突っ伏す。そのまま目の前のみかんを、のんのんと食べ始める。 きりっとしまった眉に、石の強そうな目。全体として黒を貴重とした服。 飾らないのだが、本人のルックスがルックスなため、それだけで一つの完成されたオフジェのように精錬されていた。 しかし、今はだらけきってみかんを食べているだけ…。千年の恋もさめる光景とはこのことだろう。 安益はそんな中、俺どれくらいみかん食べたっけ?などを、のんのんと思っているのだった。 「おいこらこら、そうやって人の行為を無下にするものではないぞ。どうせ暇しているのだ。余興だ」 安益とは向かい側に座っている一人の少女が、言って聞かす。 「梳柚よ、何故か今日のお前は冷たくないか?」 腰まで有る長い髪。そして今は白のセーターに、短めのスカート。 元々まつげ等が綺麗にあるので、くっきりとして見える。ので、何となく相手には強い印象を与える。 それに追い討ちをかける様に時代錯誤な言葉遣い。 梳柚はゆっくりと髪を垂らしながら話を始めた男を、このとき始めてみた。 「ワシはいつものワシだ。ソウ感じる師匠がどうかしておるのではないか?」 ……明らかにミスマッチな言葉。しかし、本人はそれを気にしたことは一度としてない。 「……まあ、いいが…兎に角、今は昼だ」 「雪降ってるけどな」 「直系、今すぐ埋葬してやろうか?」 甚平を翻し、その棚に有るステッキを掴んだところで梳柚がとめに入る。 「やめろ、二人とも。安益も話の腰を折るのは確かに失礼だぞ。ご老体に対して失礼じゃ」 沈黙。そして、数秒後に二人同時に声を上げた。 「………悪かった…兄貴」 「………いや、いいんだ、直系。何となく、俺も、何が一番ひどいのかが、やっと分かってきたところだ」 「それで、昼がどうしたのじゃ?」 無理やり話を強制する梳柚。それを聞くと『こほん』と見せ付けるように咳払いをして、 「では、問題だ。昼間、私たちは星を観察することはできない。どうしてだと思う?」 「そりゃあ、太陽光が届いてるから、だろ? 星の光りがかき消されちまうんだよな?」 「付け加えるなら、真昼でも月は見える。それで昼間でも惑星の回転が止まっていないことは証明できるのじゃな」 ずず〜と、お茶をすする音。片方はみかんをむしゃむしゃと貪っている。 「私はそんなことを言いたかったんじゃない。真昼の月など知らぬ」 いつもの師匠らしからぬ台詞に、梳柚も疑問を感じたらしく首をかしげる。 いつでも堂々としていて、ミスなどは一切ない。 知ろうとしても奥知れぬ、それが”師匠”ではなかったのか、と。 「でも、不思議ではないか? 何故星は消えるのに月は消えないのじゃ?」 「そんなことを話しているのではないと言っているだろう!! 梳柚、安益、兎に角私の話を聞け!」 逆切れ。流石にココまで来ると、偽者なのではないかと疑いたくなるというものだ。 梳柚は、黙った。 「下らん与太話だろうに…」 「ごっさ無視。さて、今は昼。星は消える。では、夜はどうだろう? 星は現れるな? 夜と昼の違いを列挙する場合、星はそのひとつであるところは疑いようがないわけだ」 「……むぅ、結局何が言いたいのじゃ……師匠、意味がわからぬ」 「……単刀直入に言おう。今、星が見える」 …………。 硬直。そして炬燵の二人が、そろって甚平の男を見た。 「今は、昼か? それとも、夜か?」 疑問の意味が分からず、二人ともお互いを見合う。 安益はそのまま、障子を開け、空を見上げた。 雪が降り積もる北海道の空。その上に確かに満点の星。 時間を確認する。確かに、昼の12時前。これは間違いない。 「……魔法、か?」 ゆっくりと、安益が立ち上がる。 炬燵から出た際の熱気が、一瞬だけ部屋の中を満たすが、すぐに消え去る。 「……ご苦労なことじゃ」 『よっこらせ』と呟き、今度は梳柚も立ち上がる。 「どのような魔法かは不明だが、おそらく結界であろうと推測できる」 「それなら相当強力な魔法だな。何せ、空を変えちまうんだからな」 シニカルに笑う安益、そしてそれを諭すかのように遮る梳柚。 「馬鹿者、そんな魔法があってたまるか。師匠、いい加減なことを言うな。そんな広範囲な魔法がどこにあるのじゃ」 しかしその言葉を無然が遮る。 「馬鹿者は二人のほうだ。別に北海道全体を覆う必要はないだろう? そう、例えば、私の家だけどか」 そして次の瞬間、雷鳴。 しかし、普通の雷鳴ではなかった。そら全体が震えるような、そんな雷鳴。 空気が振動し、流石の3人も一瞬心臓を躍らせる。 直後、電気が落ちる。 どうやらその雷は家を直撃したらしく、そのまま家は沈黙する。 「……結界の中で、自然現象を起こす魔法とか、あるのか?」 ぼそりと、暗闇で言う安益。時間は昼だが、今は”夜”だった。 「ある。しかし、今回のはおそらくそうではない。先ほどの雷で理解した。おそらくこの魔法は、” ”」 ふと、暗闇で一人の気配が消える。 「な、何じゃ!!?」 流石の梳柚もうろたえる。 「……やばいな、今回は……くそ、魔法使いがこうも積極的に攻めてくるとは、思ってなかった…」 ちっと舌を打つ安益。安益は、焦っている。そう、梳柚は感じた。 「…この前の”鏡”のせいじゃろう……わしらも、少し目立つことをしたか” ”」 ふと、さらに一人の気配が消えた。 「……梳柚? 兄貴…?」 暗闇の中、気配はない。 安益は手探りであたりを探してみる。 何もない。とりあえず何か道具があればこの戦況をひっくり返せるかもしれないのに。
あれ? そもそも、 ”どうしてこの家が見えたんだろう”? 当たり前の疑問が浮かび上がる。 そして次の瞬間―――
” ”。
暗闇の中、気配は3つとも、消えた。 本編に関係。伏線。”夢オチ”って一回やってみたかったんだよね♪ |