300のお題シリーズ

お題『 壊れた時計 』

『敵の敵は天敵っ!!』(新本格魔法少女りすか〜やさしい魔法は使えない〜、りすか)

 

「あの……すみません」

森の中。いや、森の中、森ではない一本道。

あたりは緑一色。時折、気から鳥などが飛び出してくるので、いちいちそのたびに神経を尖らせなくてはなかないのが不快だった。

森と道との境目には見えない壁のようなものがあり、森そのものが『そこを超えたら食らう』と無言のプレッシャーを与えているような気分になった。

くだらない妄想だと思いつつも、この暗い森を歩いていると、そう思ってしまう。

聞こえるのは鳥や獣の声。そして、時折森に響き渡るなんとも形容しがたい叫び声のようなものだけ。あとは、自分の足音と、心臓の音。

冷たい森は完全に日光を遮断し、目の上に枝を伸ばして、森は完全に道の上を枝で遮っていた。

そのせいか、心なしか寒い。

男はそんな中、内心びくびくしながら、身長に進む。どこからでも野生動物にかかってこられてもいいように、剣をむき出したままだ。

男は剣などは持っているものの、基本的に剣術も何もたしなんでないので、結果それは威圧的な行為にしか使用したことは無い。

大体の山賊などは、こんなナマクラの剣に驚くことは無いし、野生の獣はそんなの関係なく飛び掛ってくる。

そういう意味では、男の持つその剣は男のモチベーションを高めるためか、それとも不安を紛らわすだけという極めて非生産的なものなのだが。

それでも無いよりはマシだろうと、腰から剣を抜いたまま歩く。森は静まりかえっており、耳が逆に痛かった。

野生の声が、あたりに木霊していた。

―――と、いきなり視界が開けた。

がらりと、世界が変わったような印象。

森の中、道の延長線上、森が円形に切り取られた場所に出る。

広場…とも違う。そこあたりは草木が伸び放題になっている放置地帯で、実際に人がその中に入っていくのは無理そうだ。

だが、頭の上の枝がなくなるだけで、随分と明るくなるものだ。

その『広場』は太陽光を精一杯受け、輝いているように男には見えた。

そして、何より一番目に付くのは、その広場の真ん中にある、あつモノだった。

男は草木を手で掻き分け、そのモノへと近づく。近くで見ると間違いない。それは――

「ほう、珍しいですな、旅人さまとは」

びくっと体が条件反射で振るえ、すぐさまソッチの方を向いた。底には一人の大柄の、男。

初老の男はローブの様な服を、頭からすっぽりとかぶっていた。何処の民俗かは知らないが、ココあたりに住んでいる人間ということは間違いなさそうだ。

旅の道具が、まったく無かった。

「……あの、ここは、立ち入ってはならない場所なのですか…?」

初老の男は無口にこちらを見つめているだけなので、今度は男の方から質問する。

「貴方のような旅人がたまに入ってこられるのですが、最近はぱったりと途絶えましてね? いやいや、ココは決して神聖な場所というわけでもありませんので、ご心配なく」

質問の答えになっているような成っていないような答え。しかし、男がこれでちゃんと言葉を理解できること、そして何より敵意が無いということがわかった。

剣を、腰にしまう。流石に、丸腰の相手に剣をむき出しにして話す礼儀も無いだろう。

とにかく、そんなことはいい。今は一刻も早くこの森を抜け、デュラハンへ着かなくては成らない。

「あの…お聞きしたいのですが…デュハンはこちらの方でよろしかったでしょうか?」

「デュハンでしたら、こちらの道をいかれてください。半日も歩けば森を出れ、そしてもう半日も行けばデュハンへと付けます」

男は今まで通ってきた道とは大体90度違う方向を指差す。

よく見るとこの円形の広場にはソレを中心にそれぞれの方角へ道が伸びているらしい。

「あ……ありがとうございます」

ぺこりっと、自分の国の風習で何となく頭を下げてしまった。

しかし、それを見ても男は無反応に、

「お気をつけて、いってらっしゃいませ」

というだけだった。

 

さても、気味悪い森に迷い込んだものだ。

まったく、着いてないな…と、思う。この前のカジノの馬鹿負けから、未だに運気が上昇して無い気がする。

今回だって胡散臭い露天商から地図を買ったのが間違っていた……。あそこで10ペニーをケチらなければ、おそらくちゃんとした地図が変えただろうに。

嘆息する。しかし、今回は完全に自分の責任なので、誰にもあたれず、さらにソレが男の気分を萎えさせていた。

森。何処にでもあるような森。特に危険はないようなので、とりあえず進む。

方角はあっているのだから、このまま行けば着くだろう。それが回り道になるか近道になるかは、これまた運しだいというわけだ。

苦笑する。最近こんなのばっかりだな、と。

森の中の道は薄暗い。太陽光は大体半分ほどしか届いておらず、それ以外は全部頭上の森が覆い隠している。

上を見上げる。そこには相変わらずの枝。

あたりを見渡すも、特に変わったところは無い。これが人為的に作られたものとは考えにくいが、自然的とも考えにくい。

おそらく、レンジャーが使用する隠し道か、それともエルフらが作った産物の名残だろうと、勝手に推測する。

しかし、回りの木々の中には果物の木が無いのが致命的だった。金が無いので、ろくな食べ物を食べていないので、何でもいいので食べたかった。

「ちくしょう……ここまで運がついてないとは、な〜」

嘆息。これもまた仕方ないが。

と、がらりと、まるでシーンが変わるように、一気に明るい場所に出た。

光りのせいで一瞬だけ眩暈に似たくらみを覚えるが、すぐになれた。

その空間だけ、異質だった。

日光をイキナリ体全体に浴び、少し面食らう。そして、その空間のど真ん中に何かがあるのに気づく。

腰まである草を踏みつけながらそちらの方へと向かう。その空間は金色の植物が生えていて、そこに日光が当たるので正直まぶしかった。

ソレは、石碑のようなものだった。よく見ると表面に何か彫ってある。

さらに観察。その石碑を中心に、道が4つ、伸びていた。一つは勿論俺が歩いてきた道。

道とは言っても、あたりに比べてちょっと植物が低いため、そう見えるという話だが。

「ほう? 旅人さまとは、珍しいですな」

気配が空間にイキナリ現れたような変な感情。ふと、そちらのほうへと振り返る。

そこには一人の男。こんな日光の下、汗もかかずにローブを着込んでいた。

手はローブの下に隠れていて見えない。下に銃を隠してないという保障は無かったが、それなら撃っているな…と一人納得し計画を解く。

男を見返す。顔からは推測できないが、そこそこの手練れ。特に、俺に気配を感じさせずに近づいたのは只者じゃあないといえる。

おそらく、ココ当たりにすむ一族の人間かもしれない。もしかしたら、この石碑は墓石なのかもしれない。

ソウ考えると、この男は墓守か…と、勝手に納得する。

「どうして、俺が旅人だと?」

とりあえず聞いてみる。

「貴方のような旅人がたまに入ってこられるのですが、最近はぱったりと途絶えましてね〜。 あ、いやいや、ココは決して神聖な場所というわけでもありませんので、ご心配なく」

何か会話がかみ

合わない感じだが、とりあえず言葉が違うのだろうと内心解決する。

目の前の男をもう一度見る。

ふむ、ココあたりの人間なら、町までの道を知っているかもしれないな…。

「あ〜アンタ、ならここいらの人かい? それなら、ちょっくしミミールへ行く道を教えてくれないか?? 迷っちまってな?」

「ミミール、ですか? それなら、こちらへと行かれてください。ここからしばらく行くと森が抜けて、河へ出ますので、そこを上流のほうへと歩いて行かれてください。そうすれば、じきに橋が見えるはずです。その橋を渡れば、ミミールへはあと一直線ですよ?」

「ふむ……そうか、悪かったな。時間をとらせた」

頭の中で地図を広げる。方角的にも、間違いではないようだ。

ま、ここいらの住人だったら、当たり前のことだろうが。

男が指し示した、今まで来ていた道をまっすぐいく方向の道へと歩き出す。

その背後男は微動だにしないまま、

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

と言った。

 

一人の少女が、森の中の一本道を歩いていた。

その少女は外見だけを見るなら、年の頃12〜13歳。

少女は短い青色の髪の毛をゆっくりとゆらし、真っ白の服に短いスカートといった、旅人の格好とは正反対の格好をしていた。

しかし、彼女をそれでも旅人と判断させているもの…。それは肩に背負った巨大なバックと、そして腰、足にさしている銃。さらには胸のところにある大きめのジャックナイフだった。

そんな不釣合いな格好をまったく気にしないまま、少女は森の中を歩く。

時折上を見ながら、それでも歩みを止めようとはしない。

「はぁ〜、迷ったかなぁ〜?」

ううぅ……と、うめく少女。瞳の中には少し不安の色。

やはり、こんな薄暗い森の中を一人の少女が、それも無防備に歩くには、少々刺激が強いということかもしれない。

「ううぅ、兄様……絶対この道だって言ってたんだけど……嘘っぽいなぁ…よく考えたら、エルの”いってらっしゃい”って笑顔が怪しかったんだよぉ……てかてかてか、その前に兄様、私に『死なない程度にな』ってな声かけてたよね…あれって、どういう意味なんだろう…? ……だろう…? うぅ…」

さらに沈んでいく少女。ただでさえ薄暗い森の中、少女の周りにはさらに暗い空気が充満しているようだった。

瞳は辺りの様子をキョロキョロと見渡している。山賊が出ないかどうかと、見張っているようにも見える。

「…はぁ……山賊でも出てくれたら、締め上げて道聞けるのになぁ〜〜」

がっかり、と言った様子で肩を落とす少女。

その発言は少女を教育した”お兄ちゃん”とやらの正確を深くうかがわせるものだったが。

と。

「あれれ??」

途端、視界が開ける。目の前に広がる、いきなりの変化に、少女は目を丸くした。

そこは、黄金の庭だった。

黄色の植物。ゆっくりと風に揺れる草木に、光りをたっぷり受けて元気に育っている花々。

あたりをぐるりと見渡す。と、その庭の中心に、あるものが見えた。

「ああ!! あれかな!!?」

少女は今までの空気を一気に吹き飛ばし、まるで弾丸のようにソレへと向かう。

草木を書き分け、たまに踏み潰し、スカートが汚れるのも気にせず、ソレへとドンドンと近づいてゆく。

近づくにつれ、段々と濃くなる太陽の光り。

そこは、まさに黄金の庭、というにふさわしい光景だった。

御伽噺の中に迷い込んだ…不思議な国のアリスになったような雰囲気。

少女はしばしば、その光景を見つめた後、呟いた。

「……間違い、無いみたいだねぇ〜」

そして、少女はソレにたどり着く。

近くで見ると、それは一見普通の石碑のようだったが。

…だが、それには文字が彫ってあった。円形に、それぞれ内角20度で並んでいる12個の数字。

「ほお、旅人さまとは、珍しいですな」

いきなり背後、気配が現れる。確実に”誰もいなかった空間”に人が現れたのを少女は感じた。

どうやら、間違いない。

「おじさん、ココの人?」

「貴方のような旅人がたまに入ってこられるのですが、最近はぱったりと途絶えましてね? いやいや、ココは決して神聖な場所というわけでもありませんので、ご心配なく」

―――人形かな…。

おそらく簡単な命令を与えられた人形だろう。他の人間が間違ってここに入り込んでしまったときのために立たされている人形に違いなかった。

「お嬢さんは、どちらへ行かれるのですか?」

極めて自然に、男が話しかけてくる。しかし、少女はそれを無視して石碑へ近づく。

内心、なんともいえない感情が巻き起こる。今すぐここを立ち去らなければいけない…そんな、危機感。

なるほど、上手くできてるな〜と、感心する。

「”鍵”を探しているのですか?」

途端、殺気。

少女はその殺気を感じて、一瞬で空へと跳躍する。

そして今まで居た場所を見る。そこには変わり果てた一人の人間、いや人形がいた。

手には剣。そして、薄明るく光っているローブの内側には、無数の紋章…。

「おじさん、やっぱり守護精の類? びっくりしたぁ〜」

それを見てもケラケラと笑う少女。その瞳に、恐怖は皆無。

寧ろ楽しさすら感じされるような、純粋な少女の笑み。

そして同時に、

「でも、ねっ!」

瞬。

少女は石碑の上から跳躍し、人形の腹に強烈な一撃をお見舞いする。

その反動で吹き飛ぶ男。

思いっきり”花”をなぎ倒しながら倒れる男。そして男は視界から消える。

「ごめんね? この結界、壊させてね?」

にこりと笑って言う少女。

そして少女は石碑のど真ん中にある”時計の針”をつかむと、おもむろにその”針”に巻きついていた蔦を切った。

―――W――w―――W―。

”脈動”。

世界が、暗転、する。

「…え?」

流石にそれには少女もびっくりしたらしい。意外…いや、予想外。

森が、変形する。いや、変形なんて気持ちのいいものではない。ドロドロと、世界の全てが溶ける様に…ドロドロと、全てモノが、”無くなっていく”。

太陽、地面、勿論あたりの植物。世界それ自体が、どんどんと無くなっていく。

そして底に現れた、暗黒。それは黒く染まり、世界は灰色一色の世界になる。

そしてその沼に現れた、無数の時計―――。

気づけば少女の足も半分、まるで底なし沼に沈むように沈んでいた。

「ちょ、ちょっとぉぉっ!! い、嫌ぁぁ〜〜〜っ!! そ、そんなぁぁ!! こんなの、こんなのぉヤダよぉ−−−!!!!」

ずぶずぶとあがらうコトもできずに沈んでいく少女。

回りの光景は半分以上、奇妙な異形になり、あたりは地獄絵図さながらだった。

無数の時計が、空中、沼の中、そして周りにあった。そのどれもが、ゆっくりと、本当にゆっくりと”時を刻み”始める。

そんな中、少女は一人、

「いやぁぁぁぁーーーーー!! し、死にたくないもんっ!!! だ、誰か助けてぇぇ〜〜〜!! 兄様ぁぁーー!!」

断末魔を揚げていた。

灰色の世界は、いまや全てを飲み込み、そして、消えようとしていた。

 

「……む?」

対峙していた男は一瞬、焦ったような顔を浮かべる。しかし、それは本当に一瞬。すぐにもとの顔に戻る。

光りを失ったその瞳は対峙している男を写してはいない…が、目はすっと男に向けられていた。

しかし、その一瞬を男が見逃すわけもない。今までの戦闘の態勢を解くと、そばに来た黄金の精霊の頭をやさしく撫でてやる。

「どうしたよ、”時計塔”サマ??」

「………」

勿論、相手は一瞬だけで、何も話そうとはしない、

しかし、勝負はついていた。

どうやら妹が間に合ったらしい。まあ、無事帰ってこれたらねぎらいの言葉でもかけてやろうかどうしようかと、頭の片隅で思考する。

自分が優位に立っていると自覚する。そして、目の前の男は最早勝機が無いことを悟っただろう。

「さ、遊びは終わりだな…散々苦労させてくれたんだから、最後ぐらい綺麗に散ってくれよ…?」

ニヤリと、凶悪な笑みを顔に浮かべると、じりじりと、それこそ弱者をいたぶるようにゆっくりじっくり、しかし確実に迫っていく。

目の前の男の顔に、確実に焦りが浮ぶのがわかった。

「とりあえず、くたばって地獄で謝罪してろ」

勝負は、こうして決した。

アルカ………やっぱりこういう運命なのね…?

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