300のお題シリーズ

お題『 砂礫王国 』

例え君が願ったとしても、ボクの手は君に届かないだろう。
例え僕が願わなかったとしても、君の手は僕に届くだろう。

 

多分、俺は直ぐに忘れられるような存在なのだ、と最近よく考えるようになった。別に、これは感傷ではない。

戦争、漢字にすれば二文字、英語で言っても3文字のこの言葉に内包された感情を、俺は上手く表現できないだろう。

ありきたりな表現を使えば地獄、別世界、自分が壊れる空間。そして、人間という愚かな生き物に対して嫌悪する場所。

他の言葉を使えば凶器、暗黒、終わらない悪夢。自らの存在意義そのものが揺らぐ場所。

しかし、どのことばとて、それを正確に表せているわけではない。どの言葉も、無意味で無価値という意味を内包していないのだから。

嘆息する。そして、空を見た。

真っ青な空。雲ひとつ無い。太陽が燦々と輝き、大地を照らす。それはまるで俺らの行為を全て許してくれるようだと、勘違いする。

自問する。これは罪かと。答えは簡単に帰ってくる。コレは罪だと。

手には剣。足元には死体の山。後ろを振り返れば傷ついた仲間たち。前を見れば未だ見ぬ敵の軍勢。

頭を軽く振る。同時に、今まで考えていた全ての”邪念”が、頭から消える。

俺はただ―――殺す。

 

「っとっ!!」

目の前を数本の弓矢が掠める。ソレを頭だけを器用に動かして交わすと、そちらの方向へ目を向けた。

敵は4人。それぞれが弓を扱ってはいるが、急所に与えるだけの実力を持っているのは……1人。

おそらく他の三人はまだ場慣れしていないに違いない。こちらが多少のモーションを加えると、すでに的がばらつき始める。

しかし、4人の中の一人だけは確実に急所を狙ってきているので、それだけは毎回注意して剣で弾かなければいけなかった。

同時に、2人の剣士を相手にする。剣士は顔を黒い布で覆ったアサシンスタイルだが、剣術のソレは紛れも無く戦闘用。

暗殺用と戦闘用では剣の捌き方が大きく異なる。目の前のこいつらは、おそらく俺と同じ畑の野菜に違いない。

思いっきり目の前の一人を蹴り飛ばす。大きなモーションではないので、反応できずに吹き飛ばされる一人の剣士。

そして残念、もう一人の剣士はその光景に一瞬躊躇した。

―――決した。

その躊躇を見逃すはずもない。男の目線が俺から離れた一瞬の隙に、くるっと半円を描くような要領で敵の死角に入る。

目線を戻す。俺がいない。焦る。見渡す。俺を見つける。そして、男は倒れた。

「余所見禁物。あと、殺しちゃいねーから安心しろ」

「お〜い、こっちもいいぞ〜」

声がした。そちらの方へ顔を向けると、そこには弓矢を操っていた4人を抱えたシオンが手を振っていた。まるで子どもだ。

「ご苦労」

建物の影、俺のちょうど後ろから一人の女が現れる。その女は今まで俺が戦っていた男らを一瞥すると、慣れた手つきで男の髪の毛を抜いて回る。

奇妙な光景と思う無かれ。コレは彼女―――エリシアが得意とする魔術、いや正確には呪術、に必要な行程なのだ。

そのまま髪の毛を紙に包み、文様が描かれた紙をそのまま火にくべた。燃える紙。しかし、ソコには不思議と黄金の文様だけが、浮かび上がってきたように残る。

何度も見た、『縛り』の術。この術に”特定”された人間は、その文様に手を触れることはできず、尚且つ、その文様が燃えきらない限り、その場所を動けないのだ。

それまでに警邏に来てもらい、俺らはさっさと退散する。それがいつもの戦法だ。

「こいつら、一体何処の兵士?? 何か、戦い辛かったんだけど??」

シオンがずるずると引き続き男を引っ張って連れてくる。アリシアはその男らの髪の毛をかたっぱしから抜いていって、火にくべた。

「おそらく、正規の兵士ではないが、相当訓練された兵だろうな。連携がそこそこ取れていたしな」

俺はその兵たちを見ながら、そう意見を述べた。こいつらの戦い方は、まるで昔の自分を見ているようだ、と戦っている最中に思ったくらいだ。

戦法……いや、雰囲気だろうか。『一人が死んでも、大勢でかかって勝利する』という方程式。悲哀の方程式だが、生きる術でも有る。

それは、戦争を経験したものなら誰でも身に刻む方程式だ。足手まといはいらない。勝者だけが残っていく。それは、敵とて味方とて同じ。

「おそらく、私兵だろう。どうせ調べても、あのクソじじぃまではたどり着けんよ」

冷たい様子で言い放つエリシア。それを聞いて『なんだ〜』とふてくされるシオン。

俺はふと苦笑する。こんなに個性豊かで、しかも疑うことなき最強のパーティーを今まで想像しただろうか?

砂と岩と、ひたすら太陽が照り続ける砂礫王国に住んでいた俺は、きっと潤いを恋しがっていたのだろう。

そして目の前の二人は、俺にとっての潤いに違いない。確信する、そして苦笑する。

「さ、いくか。もうそろそろ山を下りれるからな」

何も無かったように、そしていつもの自分で、そしてそれはきっと今までのどの自分とも違ったが、俺は二人にそう述べた。

 

時間はしばし、逆転するが。

「えっと、ここって…何なんだ?」

途中。山の中で一つの洞窟を見つけた。暗い、それでもって冷たい洞窟。最初に見つけたのはシオンだった。

「さあな、天然の洞窟……ではなさそうだが」

エリシアがあたりを見渡しながら断言する。その言葉に少し引っかかりを感じて、俺はエリシアを見た。

「どうして、そうじゃないって思うんだ、エル姉ぇ?」

「いや、憶測だがな。天然の洞窟というのは、文字通り自然でできたものだから、こんな山の中腹より、地下にできやすい。それだけのことだ」

「へ〜〜、もしかして、ここ、昔盗賊のアジトとかじゃなかったのかな??」

嬉しそうなシオン。『そんなわけ無いだろう?』と肩を落とすエリシア。

「洞窟を塒にする盗賊などいるわけがないだろう? 生き埋めになる可能性がある場所に第一潜むか? それに、敵から攻め込まれでもしたら一網打尽になるのは目に見えている。毒ガスでも使われてみろ、全員死亡だぞ?」

「う……そ、そうだけどさぁ〜……」

一気に自分の意見を否定され、何もいえなくなるシオン。俺はそんなシオンが面白くて、苦笑する。

昔は、仲間といても、笑ったことなど無かったのに……、そう回想する。しかしその回想を無理やり打ち消す。今は、一つのことに集中すればいい。

「どーも、ココは昔、怪獣の塒だったらしいな……」

洞窟内へと歩いていく俺。そしてそこで、あるものを発見した。手に取る。とても軽い。そして丈夫。

白い石灰を極限まで凝縮して作ったようなソレは、紛れも無く”骨”だった。それも、おそらくはひどく大型の、動物。

「………竜、とでも言いたいのか?」

後ろからエリシアの声。俺は『さあな?』と軽く肩をすくめた。コレだけの判断材料では、なんともいえないからだ。

「ドラゴンって、存在したのか?」

いつもとは違い、いたって真面目な様子で聞いてくるシオン。エリシアはシオンを一瞥すると、

「伝説の動物だからいたとは説明できないが、逆にいないとも説明がつかないな。この骨があれば、もしかしたらドラゴンは存在したと証明できるかも知れない。とっても、伝説とは言え、世界の大半の人が”ドラゴン”の存在を信じているし、多くの宗教でドラゴンは”使い”として存在することを考えると、今度は逆に存在しなかったと考えるほうが不思議だな」

「つまり、わかんねーってことさ」

頭をくるくる回していたシオンの変わりに、俺は端的に言ってやる。シオンは煮え切らない様子で『うう…ん?』と未だに頭を抱えていたが。

「………じゃあ、あのオヤジの話、本当だったのかよ……」

「? 何か言ったか?」

消えそうな声で呟くシオンに、よく聞こえなかったのか聞き返すエリシア。シオンは『なんでもない』と反論した。

そのまま、少しだけ歩く。ちょうど、洞窟の出口に差し掛かった時点で―――

「……シオン、コレを教訓にするように、洞窟に潜むと、こういう結果になる」

黒ずくめの一団が、お迎えしてくれていた。俺は剣を抜く。目の前には黒ずくめの男たちが10人強〜20人弱。

今までの少数精鋭から考えると、少し多いだろうか。それに、気配が確認できるだけでそれだから、おそらくはもっといるだろう。

そんな状況だが、不思議と、負ける気がしなかった。

「りょ、了解…」

シオンの弱気な言葉。

「はぁ、懲りない連中だ……私を殺す気でいるらしい」

ニヤリと不適に笑うエリシア。

俺はそんな掛け合いを聞いて、さらに楽しくなった。子どもっぽいのを自覚するが、それは、紛れも無く俺に欠けた物、すなわち潤いだった。

信じれる仲間。それが、一番の素晴らしいもの。

「一気にいくかっ!」

俺はそんな二人の背中を、大きく押してやった。

こいつらと一緒なら、何だってできる。そう、自覚する。

俺の心は、いまや水をたわわに含んだ、オアシスくらいにはなっているかもしれないなと、そう内心感じた。

 

To Be Continued、次がラスト。てか、短編じゃないね…

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