「うぅん ありがとう。困らせてごめんね」

頭を小さく下げて走り去って行く女子生徒の後ろ姿を、俺はぼんやりと見送っていた。

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明想鏡水 番外編 A Mirage Night

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たぞ見たぞ〜!!わったー、今日告られてたろ?」

脱いだYシャツをハンガーにかけようとした俺に風見君が声をかけてきた。

同時に、部室にいた男子の目付きが一瞬にして変わる。何かこう…怖いというかなんというか。

「マジ?マジで?オマエモテんのかよ!うらやましすぎるぜ!」

ノリのいい2年の先輩が、勢いよく俺の背中を叩く。何も着てないから痛いんですけど…。

で、胴着を着る。別に…告白されたってどうって事ないじゃん?断ったんだし。

「でも断ったよ。」

今は誰とも付き合う気ないしね、と小さく付け加えた。

「何で?高校生だし別に付き合ったっていいんじゃん?部活に支障与えるワケでもないし…」

すでに着替えを終えた神楽君が自分の防具を準備しながら言う。

いや…別に好きじゃないし…まぁお試しで付き合うってのもアリだけど、俺はどっちかっていうとそういうんじゃ

なくて、付き合うんだったらちゃんと好きな人と付き合いたい方だしな…

そう思ったら。突然、 ふっ と頭の中を一人の女子の顔がよぎった。

何考えてるんだ俺…!集中しようと、4時から始まる部活のために着々と支度を続ける。が。

「わかった!葉夏様だろ!」

突然氷室君がその名前を出したから、棚から取ろうとした防具を床に勢いよく落とした。

数秒間、俺の周りの空間だけが止まった気がした。正しくは、男子部室内が、だ。

「…マジ?!マジで??!!なぁ、俺当たりっ?ビンゴ?」

後ろで氷室君が叫んでいる。何かこう…だらだらと冷や汗みたいなモンが額を流れてるのがわかる。


葉夏

緑翠国第十八王女 葉夏


1ヶ月前、俺は彼女と出会った。ほんの、1、2週間の間の事だった。

4月、俺等1年生男女8人は変な…いや、異世界に飛ばされて…何かファンタジー小説に出てきそうな話

だけど、俺等は剣を持って闘って…悪を封印してコッチの世界に戻ってきた。夢みたいだけど現実の話。

その旅先で出会ったのが緑翠国第十八王女 葉夏だった。

俺等と同じ16歳で一国の王女になり、国に一生を捧げなきゃいけねぇ。政略結婚を断ったせいで悪に

やられそうになったのを、俺等8人で守った…。そのまま俺等は別れた。

あの時…涙をこらえきれなかった彼女に青砥君は言ったっけ。

"…今生の別れじゃないんだから…いつかきっと、また…会える。俺等は…生きてるんだから…"

そう、確かに言った。けど…今思えば、俺等は生きてく世界が違うんだ。また会えるなんて事、ないんだ。


「で、どうなのよ?」

ぼんやりと考えていた俺の肩にポンと手をやる若狭君。気付けば皆、俺を見ている。

「…さぁ?」

俺は適当に答えると、落とした防具を拾って部室を出た。







あの時。実は…一つだけ、俺は皆に隠し事をしていた。

彼女の護衛になってから一週間。そう、丁度須左之男が現れた…あの日の夜の事だった。




「…ごめんなさいね。疲れているのに…突然お呼び出ししてしまって。」

葉夏王女は軽く頭をさげ、あの笑顔を俺に向けた。 いいや と俺は小さく言う。

くったくのない笑顔。今のあの…何を考えてるのかよくわからない女子高生とは違う、裏表のない顔。

とまぁこんな事を言ったら、きっと青空さんや殿岡さんに何を言われるかわからないから絶対口には出さないけど。

とにかく、その笑顔は貴重だと思う。俺等が住んでる世界にはそうナイモノのような気がした。

庭は、王女の誕生パーティのためにイルミネーションが施され、キラキラと光っていた。

まるでクリスマスみたいだな…そんな事を思いながら、葉夏王女を見る。

「今日は…本当にどうもありがとうございました。いくらお礼を言っても言い足りないくらいです。」

「そんな…でも、そのために雇われたようなものですから。」

俺は素直に答える。

「…私…結婚は…好きな方と…するモノだと思います…。渡部様はどう思われます?」

「そうですね。俺も同意見です。」

答えた事は事実。けれど…俺は恋愛というモノがよくわからない。まだ人を好きになった事がないんだと思う。

だから"好きな人と結婚"って言われても、イマイチ実感がわかない。こんな俺でもいつか結婚するのか?

そうなったら相手はちょっとかわいそうだな…想像して正直にそう思った。

「…渡部様は…私の事…お嫌いですか?」

「!いやっ…そんな事はないよ。ごめん、態度が悪かったら謝る。そんな事、絶対ないよ。」

俺は慌てて弁解する。むしろ、好きな方だよ。そう言おうと思ったけど、やめた。何か自分には合わない気がした。

「…私は…貴方の事が好きです…」

「!」

「ほんの…ほんのわずかな時しかお話していませんし…渡部様の事…まだ知らない事が沢山あります。けれど…」

一生懸命なのだろう。頬が真っ赤で…それは薄暗い中、庭のイルミネーションにライトアップされ、俺の目に焼き付いた。

「あ…」

何か言いたかったけれど、何も言えなかった。何を言っていいのかわからなかった。

「…すみません、困らせてしまって。」

先に葉夏王女が口を開き、少し半泣きになった表情で…無理矢理笑顔を作って俺に向けてくれた。

「…貴方が、好きです。一緒にいたいです。けれど…私は王女でこの国を出るわけにはいきません。そして渡部様も…

旅をして…この世界ではなく、元の世界に戻らなければいけないのですものね。」

ニコッと笑うと、俺に背を向けた。少し、肩がふるえていた。

「…本当にごめんなさい。でも…私の気持ち…伝えたかったのです。貴方に。」

少し強がっているんだと思う。また、肩が大きくふるえた。


「…俺も、葉夏王女の事好きです。」


自然と、口から出た言葉。偽りはなかった。

「…でも…葉夏王女の言う通り…俺は元の世界に戻るために、皆と旅を続けなければいけません。」

「っはい…わかっています…」

「もう…二度と会えないかもしれません…」

「………」

そこで少し、間をおいた。俺自身にも、何かこう…熱いものがこみ上げてきていた。

「でも…もう一度…もしも出会えたら…その時は…ぜひ…付き合ってください。」

俺は…精一杯の笑顔を向けた。葉夏王女は…涙をこぼして俺の方を向いた。

すごく、綺麗だと思った。


「…っ…はいっ……」




その後は……

そこまで記憶をたどってやめた。思い出すと恥ずかしいから、きっと顔が赤面する。

「…わったー大丈夫?熱でもあるんじゃない?顔赤いよ?」

隣に座っていた青空さんが俺の顔を見る。えっ…もう俺の顔赤いのかよ?

「大丈夫。いたって健康。」

俺はそう言うと、竹刀を持ってウォーミングアップをする。




そうして俺は今日も部活に励む。

きっと…この先…彼女の事を忘れる事はないと思う。

いつかまた会えたら……そんな事、夢の世界の出来事なのかもしれない。


でも俺は願う。そうして、あの時の事を思い出した。


「…一度だけ…抱きしめていいかな」

俺がそう聞いた時の君の恥ずかしそうな笑顔。きっと、一生俺の心に残ると思うんだ。

 

 


作者@彼方様@ ■ サイト→

 

まずは最初に感謝と謝罪を述べなくてはいけません。

一つ目。

紫雲の我侭で小説を作ってくださって、本当にありがとうございます。

と、言いますのも。

紫雲が態々メールで、何とも迷惑なのですが『葉夏とはアレからどうなっているのですが?』と無礼にも聞き続けたので…。

いやはや、本当に申し訳ない(涙

そして、謝罪。

長い間BBSを見なくて申し訳ございませんでした…。

そのお陰で、ずっとアドレス晒しっぱなしでしたし…。

本当に申し訳ございません。弁明のしようがありませんです・・・。

 

ニヤニヤしながら読んでましたが(←変態?

個人的にこういう、プラトニック…というか、恋愛一歩手前(?)みたいな関係は大好きですwww

それに、これから彼らは旅に出なくてはいけないわけで…。

すっごく別れがつらいはずなのですが、でも別れたくて…。

きゃぁ〜〜☆(死

とにかく、萌えが一杯につまった作品で、超がつくお気に入りに登録間違い無の作品ですっ♪(壊

と言うか、明想鏡水本編を読んでいない方はちょっと分かられないので、ソッチのほうも是非読まれてくださいね☆(さりげ宣伝

彼方様、本当にありがとうございました!

何か、今度お返しを絶対にさせていただきますので!

p.s. A Mirage Night(直訳すると蜃気楼の夜?)は明想鏡水って言葉の英語から翡翠が勝手に付けました♪(←ぉぃ

誠、感謝。