計略だらけのフェスティバル
- 後編 -
花火の音とともにオープニングセレモニーが終わり大祭は始まる。
近隣の町から集まってきた大道芸人や屋台、このためにわざわざやってくる旅行者、この町で働く一般市民、どこにでもある参加者自由のお祭りだった。
ただ、この一年に一度の祭りには、ただのお祭りという側面だけではない、その証拠に四大国以外の国からもスカウトや外交官たちがやってくる。
卒業後、自国に引き入れるための選定をするわけだ。
そんな連中が今年注目しているのは武術祭、生徒会が直前になって参加を控える旨を学園に発表したために、今年は例年より特に盛り上がりを見せていた。
一部の人間を除けば、ほとんど実力は拮抗している中で、その一部の人間が不参加を表明したのだ。
ここぞとばかりに武術祭に申し込みをする生徒が増大、結果多くても三百人程度しか参加しないのに今年は八百人あまりの人間が参加をするという異常現象がおきてしまっていた。
と、同時に非公式新聞部等一部のサークルもかなりの盛り上がりを見せている。
本命、対抗などの予想を各々が勝手に作り出してそれぞれの倍率を計算し、賭博にする。
と言っても、生徒会公認であり一部の利益は生徒会に還元されるので後ろめたいという雰囲気は無くむしろ盛況だった。
その中で一番人気を獲得したのはアルカ・ブルーリバー。副会長の兄を持つからという理由だけではなく、技術も生徒会に次ぐ力を持っているというのと、その可愛いといえる顔に嫌味のなく外向的な性格等も人気のひとつだ。
そんな異様な盛り上がりの中で武祭は幕を開ける。
そして、その会場では………
目の前にいる相手に対してアルカは目を擦った。しかし、擦ったからといって、目の前に人物は替わるまでも無くアルカは絶叫する。
観客は一同に沈黙していた。
「何で兄様がここにいるんですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
その声に対し煩そうに眉をしかめながら、制服姿のままのスノゥは気の無い感じで言った。
「なぜって?? 生徒会に私が推薦されたからだが、それが何か?」
その一言にアルカは口をパクパクさせて、その一言で本当に何も言えなくなってしまったのだ。その後ようやく落ち着きを取り戻す。
「だって、兄様生徒会役員……」
「そうだな。それが?」
「いや、だって今回生徒会は参加しないという書類を提出したんじゃ……」
「したよ。それで?」
「まさか、一時的に生徒会を抜けるなんてことを……」
そこまで聞くとスノゥは盛大に呆れたため息を吐く。
「誰がそんな陳腐な手を使うか。あと、書類にも今回は一名のみ生徒会役員を出すといった旨は書いてない。安心しろ」
「じゃあ何で兄様がここにいるんですか〜〜〜〜〜〜〜泣」
鬱陶しいという目でアルカを見ると、生徒規約を出しアルカに軽く投げる。
「それの、第142条三項を読め」
「生徒会の決定………生徒会の決定は絶対でありそれを覆すことは生徒会をもってしてもすることは出来ない。よってその決定の書類には厳重な監査を設ける。
第一に生徒会各々のサインおよび落款があること
第二に生徒会の決定印があること
第三に専門委員会において受理されること
以上三点のうち一個でも欠けている場合その書類は正規のものとはせず、不受理とする。
これが何か?」
「……まぁ最近は略式で書くことが多いので生徒会役員のうちの誰かのサインと決定印で通ることが多い。それは周知の事実だがね。今回の書類を見てみよう」
そういって書類の写しを出す。
「なるほど、確かに生徒会は今回の武祭において出場しないとの旨をこの書類で発表している。次に生徒会役員全員のサインが文章の末尾にのっているね。そして、大会執行委員に受理はされた。だが……いただけない何故か生徒会の決定印というものが押しては無いではないか。これでは、正規の書類とは言えずこんなものただの紙切れにしかならない」
何故かを強調しながらビリビリと書類を破り紙くずに変える。そして次にもう一枚の書類の写しを出した。
「そしてこれが、生徒会推薦枠の書類だ。これには生徒会推薦において選出された一名をこの武祭に出場させるという旨が書かれていて、生徒会全員のサイン、生徒会の決定印そして委員会での受理を受けたため正規の書類となった。ちなみにこれには、推薦による一切の苦情を受け付けないということも書いてある。ただし、生徒会役員は推薦枠の対象外であるとは書いていない。よって、私は何も違法なことはしていないのだよ。何か質問は?」
まるっきり悪役のセリフを吐くとアルカに質問という最終勧告を行う。
「………鬼」
その場にいる全員がそう思っている言葉を一言ボソッと呪うように吐くが、そんなものどこ吹く風で
「『鬼』だなんて、本物の鬼に失礼ではないか。せいぜい悪魔と呼んでくれ」
まさに悪魔の笑みを浮かべながらいけしゃあしゃあとのたまう。
「因みに今回の武祭において棄権というものは無いという旨の書類も提出してあるから今から棄権することは出来ないよ」
しばらくの沈黙の後、あるかは腰に携えたエベを抜き壊れたように言う。
「………もういいです。用は兄様を倒せばいいだけですよね。そうですよね。あは、あははは……。なら、簡単です。この化け物をさっさと倒して優勝するだけですから」
「むぅ、化け物とはまた失礼な」
「『人を超えた力の持ち主』が化け物の定義なら十分化け物です」
そういうとエベを構える。
「ま、そういうのなら仕方が無いか」
そういうと、審判は開始の合図し、試合ははじまった。
試合は時間無制限どちらかが降参するかフィールドの外にはじき出されるまで続けられる。
そんな中二人はお互いすり足でジリジリと間合いを計るアルカはスノゥに対し反時計回りに距離を縮めながら弧を描くように間合いを詰めるのに対しスノゥはその動きを追いながら自分の間合いを手に入れようとする。そんなことが十分ほど続いたあと、
「あ、そうだアルカ。言うことがあるわ」
急に気迫を散らし何気なくアルカに呼びかける。
それに対しアルカは少しコケたあと、構えを解いて聞く。
「なんですか。兄様」
ぶっきらぼうにそう言うと、スノゥはしめたとばかりに足に持っていた紐を投げて絡ませるとおもむろに引っ張りあげてアルカを上空に吹っ飛ばす。
「うきゃえうおぁ!?」
いきなり吹っ飛ばされて珍妙な声を出すアルカを見た後、
「ティンク、行け」
とスノゥは指示を出すと金色の精霊が飛び出して空中にいるアルカを場外に向けて蹴り飛ばした。
「審判が開始っていったら、試合は開始だから、油断しないこと」
場外に吹っ飛ばされクレーターを作ったアルカに無情にも魔術で出した氷の槍をバシュバシュとばしながら、そう言い試合会場を後にした。そして、ここにアルカの負けは確定した。
後にこの試合を見た観客は一様に『あいつは鬼だ』と言ったと言う。
この後、試合はスノゥと対戦した一部を除き順調に進み、開始から八時間後決勝を迎える。
「全く。やはりお兄様でしたか。まぁ、ただでは起き上がらない人だというのは知っておりましたが、ここまでえげつない手段を使うなんて、流石と言うか、何というかもう、やはりお兄様ですわね」
今まで別の会場で勝ち抜いてきたエリュシオンがやっぱり、といった感じで決勝の相手を見ながら半ば呆れた様子でそうこぼす。
「いや、何、そう褒めることは無いよ。偶然が積み重なってたまたま私が出場することになっただけだ」
その一言に、周りの観客から怨嗟の声と対戦してきた相手から罵倒が飛ぶがそんなこと灰にも解せずに言った。
「計算づくで作り上げた偶然というのは偶然といわないのをご存じなかったのですか?」
「ほぅ。巷ではそうなのか。これは勉強になった。お礼をしよう、何がいい?」
「そうですね。優勝を下さい。お兄様に勝つことが私の目的なので」
「残念ながらその願いはかなえられないんだよ。私もしがない下っ端なのでね」
「なら、倒すだけですわ」
「言ってくれるねエル。なら、本気を出そうか」
「くすっ。なら、それも悪くは無いですわ」
エリュシオンのその一言が決勝開始の合図となる。
言い終わるな否や彼女は大きく踏み込み腰の剣を抜きつつスノゥの懐に迫りその切っ先で相手を薙ぐ。
意外なエルの反応にスノゥの反応は遅れ剣を半分抜いた状態でかろうじて受け止めその反動で一気に後ろに跳んだ。
「かかった」
その飛んだ瞬間を狙い、左中指と人差し指に嵌めていたリングから先端に鏃のような錘のついている研ぎ澄まされた極細の鋼糸がスノゥめがけて飛ぶ。
「ちっ、ティンク、護れ」
後ろに跳びながらティンクを召喚する。すると彼女は金色の六枚の羽をスノゥの周りに展開し包み込むように閉じてその鋼糸からスノゥを護った。
そして、スノゥがある程度間合いを取る。と、右手にエベを持ったまま残念そうに言う。
「さすが、お兄様ですわ。全く、意表をついて片をつけようかと思いましたのに、ことごとくかわすなんて、普通の人間じゃ考えられませんわ」
「ほめているようには聞こえないがそれは気のせいかな?」
ティンクを傍らに従えてスノゥが言う。
「そんなことありませんわ、お兄様。でも、確かに先ほどの戦闘で決着をつける予定でいたので、残念といえば残念ですわね」
「期待に応えられなくてすまないね。ただ、もし今ので決着がついたら、それはそれで盛り上がりに欠けるというものだろう。だからエル。いい加減隠すのをやめたらどうだ? 正真正銘本気でやりあおうか。それとも、気付かないと思ったかな? 確かに巧妙に隠されているけど、この気配を私が感知しないとでも?」
エルがひとつため息を吐く。
「残念ですわ。こんなに早く気付かれるとは思いもよりませんでしたので、やはり先程の一手で倒せなかったことが悔やまれますわね」
―――eine Himmel Oberseite wird gereinigt
―― der Mond――――
「これで、文句は無いでしょう兄様?」
エルの口からアルカの声で真言が紡がれる。
その終わりとともに世界は一変する。
一面を覆っていた夕暮れがまるでガラスの天球が割れるように崩れ落ち、雲の無い一面の星空と、気味の悪いくらい幻想的な青白く輝く満月があらわれる。
周りのギャラリーからもどよめきがおこる。確かに、この世界の住人ならこの現象をなんと呼べばいいのか知っている。
それは、世界を探しても最大二十四人しか持ちえることの出来ない奇跡。
一定の限定空間内を完全に掌握し、自分専用の世界を作りあげる。
魔術の極みにして、神の与えたもうた気まぐれ。それを人は魔法と呼ぶ。
「ランク十八位『ルナ』か。全く、エル、君は誰に似たのだろうね」
「私にもっとも近しい人ですわ。ただ、私はそこまで凶悪ではございませんけれども。では、タネを明かしたところで、お祭りの再開と参りましょうか。本気で来てくださいね。でないと楽しめないよ? 私たち二人を相手にするんだから」
いつの間にか握っていたアルカの剣『パンナフーア』を片手に構えて最初はエルの声最後はアルカの声になって言う。
これがランク十八位の使い手エリュシオンの魔法、『メンタルシフト』だった。
その名前のとおり自分以外の誰かを自分の体に同居させ、お互いがお互いの力を使えられるようにする。つまり、スノゥはこの時点で剣と体術を得意とするアルカと、魔術においてスノゥをも凌駕すると言われるエルを相手にすることになったのだ。
「さてティンク。ちょっと本気を出すよ。しばらくきみのその自慢の羽を貸してくれ」
そして、武祭始まって以来の壮絶な戦いが始まる。
ちなみに、アルカは武祭が終わった後一回戦負けということで次の日から一ヶ月間メイド服を着て屋敷を掃除したという・・・・(合掌)
【多分要らない感想】
どうも、Fate様、本当にありがとうございます。
スノゥ、シャリオなど、Fate様の小説・『 Masquerade Kingdom 』のキャラクター達の過去のお話ですね。
個人的にはアルカファンなので、アルカがいないのが凄く残念だったりするのですが…。
っと感想で言っていたら、Fate様が急遽加筆修正をしてくださいました(ぉぉっぉ
申し訳ございません、そして、ありがとうございました(ニヤリ
それにしても、本編ではそこまで無いのですが、こうやって見るとスノゥの邪悪性が滲み出てますね……。
さすが、スノゥ。
プレゼント、感謝しますw
ちなみに、『計略だらけのフェスティバル』は紫雲が銘銘させて頂きました。ダサかったら、ごめんなさい…。
さて、今回は完全に本編の過去ってテイストで書かれているはずなのですが〜。
いやぁ〜キャラが生きてるなぁ☆
つか、あの空想具現化ばりに反則な能力は何なんでしょうか…。
う〜ん、Fate様の魔術定義が物凄く見てみたい今日この頃です。
個人的にははやりアルカが活躍しなかったことが………。
ううぅ、やっぱりアルカはそんな運命なのか…と涙せずにはいられない展開でしたが。
まあ、まだエルいるし♪
是非、スノゥを倒して欲しいですね☆