09月02日

 

 

「………おはよ」

気分は暗鬱。つーか、テンションは最低。

今日は新学期始めての登校日。

昨日は早々と始業式だけで学校が終わり、懐かしい面々との再会もそこそこに、帰宅だったのだが。

「はぁ〜〜」

俺は、溜息を付く。目を瞑り、ちょっとの間異世界へと旅立つ。

何故にこんなに暗鬱な一日のスタートを切らねばならんのかと、自問自答する。

それは昨日が日曜日だったから、今日から月曜日だから。

無関係。つか、夏休みに日曜日も何も無い。

じゃあ、次。次の議題について。

夏休みが恋しくて、そんで持って暗鬱。

半分正解。まあ、あと半分の理由はと言えば…

「和人、おはよ」

「………」

付近が、どよっとどよめく。付近でひそひそ声。

うう、早速目立ってやがる…。俺は内心冷や冷やする。

『いいな、俺とお前の関係は、極々親しいものだけの秘密だ』

そう、言い聞かせたのだが。

「…お、おはよう…森崎…」

「? …どうした、和人?」

何が何だか分からないといった様子で聞き返してくる巴。

これで本人は全く気づいていないのだから反則だと思う。

つか、反則。禁じ手にしてルール無視にして、規則違反にして禁止事項。

付近の視線が痛い。嗚呼、何故俺はこうも朝から目立っているのだ??

「も、森崎こそどうしたんだ? お、お前のクラスは隣り…だろ??」

いい加減分かってくれと、無言のエールを送るが、

「まだ、予鈴まで5分もあるぞ、和人、そんなに私といるのが嫌…か?」

心底傷ついた表情をする巴。

…残念でした。

こいつに、俺の無言のエールを受信するアンテナが無かった。てか、チャンネルすら開いてなかった。

地球人は多分、永遠に異星人と会話する事は不可能だろうと思う。

「あははは…」

苦笑いの薫。

「………」

いつも通りの翼。そして、

「よ、カップルご夫妻♪」

茶化す馬鹿。

ってっっ!!!

『オオオオーーーーーーー!!!』

「…」

盛り上がる教室。何だかわからないが、歓声。声援、そして何故か憎悪の念。

お、怨念すか?! や、やめろ〜〜生霊っ!!!

巴は何が何だか分からないといった様子。

不安そうな目で、俺を見る。

「和人、こ、これは一体なんだ…」

阿呆。

「…もう、ばれたんだよ…馬鹿」

溜息。つか、演技もクソも無かった。

と言うより、巴にそういうものを求めるのが、そもそもの間違いだったのだが。

まあ、最初から分かっていたことでは会ったのだが。

「あははははははは、つか隠す気あるのか〜って感じだけどねぇ」

大笑いの梓。

「…そればっかは、俺も同感」

労れる。がくりと、うなだれる。

そう、朝から俺が労れている理由が、コレだった。

「それにしても、巴、演技も何もありませんでしたね」

流石に苦笑する薫。

「…そ、そうなのか…その、和人、すまない…」

「…いや、いいんだがな」

まあ、どうせ遅かれ早かればれていたことではあるのだが。

それにしても、学期早々5分でばれるのは問題だと思うのだが。

と。

「あ? 予鈴だね」

喧騒などどこのその。翼がマイペースに言う。

「そうだな、ほら、森崎……つか、巴。お前、もう教室に戻れ」

しかし、まったく動こうとしない巴。

目をこちらに向けて、何か言いたげに固まっている。

「………なんだ、その表情は?」

とりあえず、ちょっとキツイ感じで詰問。

「…和人は、私と居るのが、そんなに嫌…か?」

不安そうな顔をする巴。

『おおおおオオオオオォォォォォォーーーーー!!!!』

教室のテンションは最高潮だった。

勘弁してくれ…。つか、俺のクラスの奴ら、五月蝿すぎ!!!

 

 

 

「………って、何でこうなるんだ?」

俺は問う。俺は問いたい。心の底から、そして同様に頭のてっぺんまで。

「何でって、やっぱり皆で飯喰ったほうが楽しいだろ?」

脳天気一号機。お前には聞いてない。

「そうだよ〜和くん! やっぱりご飯は皆で食べないと!」

同じく二号。てか、君は答えれるとは思ってない。

「まあまあ、和人、別にいいじゃないですか」

微笑む三号。何もかもを知りながらその表情は止めてほしいなぁ…。

「……」

無言の四号。それはそれで対応に困る。

「………たまには、こういうのも、いいな」

やたらと上機嫌なお姫様一人。お前が原因じゃーーーーーーーっ!!!!!!

「ちっがっっうーーー!!!」

「和の字、その文字、読みにくいぞ」

「知るかぁっ!! つか、今の時代のどこに昼休みの飯を中庭で食べる学校があるかぁっ! しかも、俺の学校は飯は学食だろうがぁぁぁぁ!!!」

喚く。騒ぐ、同時に大声で述べる、主張する。

「和くん、食事は静かに食べようね?」

注意される。

「はい、お弁当」

と、隣の薫から一つのお弁当が渡される。

「……これ、薫の?」

「はい、そうですよ?」

笑う薫。ちょっとだけ、安心。

「ううう、薫〜お前だけだぞ〜…俺が弁当持って来てないって覚えてくれてたの。お父さん、感動で涙がぁよよよよよ…」

「あはは和人、大袈裟ですよ〜」

「ほらほら、馬鹿ズの字。さっさと飯食べちまおうぜ?」

「うるさいっ! 俺の事すっかり忘れて喰い始めてやがった癖に! つか、何でこんなとこで食べてんだよ!」

「…和人、五月蝿い」

再度、注意。つか、何か巴は一気に不機嫌になったらしい。

「ちくしょー、グレてやる!!」

走り出す俺。誰も止めない。てか、『あーあ…』みたいな哀れむ目。

つか、その憫れむような目を止めろ。そして巴、意味不明といった雰囲気で顔を傾げないで下さい。

 

 

 

「はぁ〜…労れた…」

一日が終わる。いや、正確には終わらない。

「和人、途中まで一緒に帰りましょう?」

と、薫。

「……和人、帰ろうか」

と、翼。

「和人、お前はもう少し待てないのか。ウチのクラスのHRは長いんだぞ」

そして、巴。

「………まあ、いいけどな…」

おれはそう呟いて、歩き出す。

確かに初日から労れてはいたけど、そこまで不快でもない。

 

 

ゆっくりと、町を歩く。一人だと長いのに、4人になると滅茶苦茶遅く感じる下校道。

たわいもない雑談をしながら、ゆっくり4人肩を並べて歩く。

「そういえば、和人、今日は良く起きれましたね?」

最近、色々なことが変わった。というより、新しくなった、そんな感じだ。

そんなことをゆっくりと思い返しながら、歩いてゆく。

「ああ、まあ、な」

まずは、俺が元気になった。元気、という言い方は変かもしれない。

原因不明の病気から、原因不明の回復。それは医者も完全にサジを投げていた時のことだったので、奇跡だといわれ続けた。

俺は、そうは思わないが。ただ、理由を説明したところで理解してくれないだろうから、そのまま黙っていた。

「…私が起こしに行ったからだろう。私が来なければ、絶対に寝ていた」

そして、俺と巴は付き合うことになった。それは、多分、とても喜ばしいこと。

夏休みの殆どは俺のリハビリに消えたけど、それでも俺をしっかりと横でサポートしてくれたのが、巴だった。

本当に、巴には感謝し尽くしても足りないくらい、感謝している。

「…なるほどね。和人らしい」

そして何よりも驚いたのは、美咲だった。それまで、一番心配だったのが、美咲だったからだ。

美咲と巴は、会ってしまえばお互い意外に気が合うらしく、今では普通に会話できる程度までにはなっていた。

「うるせーよ。つか、これから新学期かぁ〜」

それが、何となく嬉しかった。そして、それはきっと幸せだった。

まるで、家族が一人増えたようで。とても、幸福だった。

「嬉しいだろう、和人?」

「ん? どうしてだ?」

「だってな…」

微妙に顔を赤らめながら、俯く巴。

 

「これからは、毎日一緒だ」

 

「………」

「………」

「………」

その言葉に、沈黙が三名。流石に自分の言った事に自身を持てなくなったのか、不安そうな顔をする巴。

「私、また変なことを言ったか?」

しばし、沈黙。

「な、何とか言え!?」

催促。

「いや…な」

何とも言えない感情に魘われ、沈黙する俺。というより、どう答えれば良いと言うのだろう。

「アハハ、ノロけられちゃいました」

「…ある意味、才能だよね」

そこでの二人の独白にも似た呟きが、さらに俺を恥ずかしくさせた。

―――照れりこ照れりこ。

 

 

「んじゃな、巴。ここで」

「…ん…」

最後の分岐点。翼とも分かれ、俺らは二人きりになっていた。

意外に巴の屋敷は近くにあり、俺の家との距離は本当に少しだった。

…性格には、少しだと巴が言い張っているのだが。

「…どうした?」

無言。

赤らんだ顔。

…もしや。

「キス…か?」

コクリ、肯定。

うわー、マジか?

ここでか?

こんな公衆の面前で、キスをしろと言うのか?

「………和人は、嫌か」

…まったく、誰もコイツに一般的なセンスを教えてなかったのだろうか。

森崎家の、英才教育に穴がっっ!!! 今度あの執事の人にあったら絶対に訴えてやろうと心に誓う。

仕方無く、

「……………んぁ…」

…。

少し、長めのキス。

無言の空間。それだけで、会話するよりも確実にお互いの感情が伝わる。

「…じゃ、じゃあな…」

「うん…また、明日………」

………。

や、やべー。心臓が破裂しそうだ。

巴も満足したのか、顔を赤らめながら、分かれ道の向こう側へと、消えて行った。

…。

照れりこ照れりこ。

「ひゃっほーーーーーっ!!」

わけも無く叫んでみたい気分だった。

「うはー、相変わらずのバカップルぶりぃ」

「――――――っっっ??!!??」

いきなり背後に声。硬直。

「……………………

「……何さ?」

「………お、お前、一体どこにいたんだよ?」

その言葉に妹はニヤっと笑って、

「どこでもいいじゃーん。つか、交差点のど真ん中でやってると、本当に馬鹿ップルだよね…」

「ぐ…」

否定は、出来無い。つか、自覚があるからさらにダメだ。

「………にしても、やっぱ兄ぃと巴さん、付き合ってんだね…」

「…当然だろう。つか、朝迎えに来ただろ?」

『まあ来たけどさ』と反論する美咲。

「それでも、やっぱり、目の前で見るとね、違うもんなんだよね…」

遠い目をする美咲。おばあさんみたいだ、美咲……。

「………っってあたしのキャラらしくなかったね! ごめんごめん、今のカットね〜」

「ああ、俺の記憶からカットしておくから、家の中に入ろうぜ。腹、空いたわ」

「へ〜い…今日は私の番だよね〜うに〜何も考えてないよぅ…」

そのまま、家の中へ。最高の一日。

でも、何か、大切なものを、忘れているような違和感が、俺にはずっとあったのだ。

でも、今最高に楽しいから、いいのかもしれないと、ちょっとだけ思ってしまった。

「あ〜あ、私も彼氏、作ろうかな〜」

「断固反対」

「……なんでさ、馬鹿兄?」

「何ででもだっ!!!!」

「うわ、何それ何それ!! シスコンスカ、シスコンですかーーーーー??! キモイぃぃ!!」

やかましい。

 

 

 

 

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