10月07日
朝。早朝というには遅く、昼頃というにはあまりに早すぎる時間帯。
俺は着実に秋へと近づきつつある雰囲気を感じながら、校門をくぐる。
付近の空気は冷たく栖んでおり、まだ主に生徒が登校してくる時間からは少し早いためだろうが、学校全体が沈黙し、まるで異界に入ってしまったような錯覚を覚える。
俺はそんな校舎を一瞬だけ見上げて、そしてゆっくりと学校内へと入って言った。
誰も居ない下駄箱で靴を履き替え、そして自分の教室へと入って行く。
窓から、校庭が一望できた。本来は、もううそろそろ満開になっていい紅葉が、今一咲き誇れずにいる様子が、なんとも寂しい。
今年の秋は、夏からの気温の変化が遅く、冬への移りが早いらしい。
そのため、今一木々はいつもの、葉を青々と茂らせているイメージからは、どこか一つ物足りないような、そんな印象を覚えてしまう。
その校庭から目を話し、自分の教室へと入る。とにかく、今は何を見ても感動できず、ネガティブに捕らえてしまうだろうから。
その教室の中には、数人の人間が見えた。それは、見知った顔だった。
「お、久良木。おはよ」
その中の一人であるところの、新が俺に挨拶をしてくる。挨拶というよりは、意思疎通ですらないが。
俺はまだそんなに人が居ない教室で、自分の足音を聞きながら、自分の席に腰掛ける。
ひやりと、今まで誰も座っていなかったために冷たく冷えている椅子の感触が、心地いい。
がらりと椅子を引くと、自らの席に腰を落ち着けてすぐさま、先ほどの一人の男が歩いてくる。
「ああ、おはよ、アラタ」
アラタと呼ばれた男は、外の友達の席から、俺の席の前に移動をして、机にこしかけた。
ちょうど頭三つ分くらい上に、新の顔が見える。新は長身だ。
新は、パッと見では、勉強は出来そうにも無い…むしろスポーツマンっぽい印象があるのだが、それは実は真逆だった。
実際、成績は学校の中でもトップクラス。今のところ、勉強でこいつを抜いたことは無い。
その代わり、外見からは想像できないほどに運動がダメなのだが…。
そこあたりは結構非力で有名な俺とも話があった。そう、新は、俺の”新しい友達”だった。
「久良木、例の問題、やってきたか?」
ニヤニヤとしながら新が俺を見てくる。こいつがこういう表情をするときは決まって、勝ちを確信している瞬間だ。
俺はその質問が来るのを予測していたため、とびっきりの憎しみの表情と共に呻く。
「…想像通り、手も足も出なかったさ…」
「はっはっは、少しは頭を使って考えたらどうだ?」
わはははと笑う新。それは、見たものが気持ちよくなるほどの笑い。しかし、された本人は、滅茶苦茶にムカつくのだが。
そんな新を侮蔑した目で眺めながら、俺は心のそこからこみ上げてくる笑いを実感していた。
新を始めとするグループは、昔おれは『秀才グループ』としめ括っていた集団の人間でもあり、そんなに話したことも無い人間だった。
しかし、いざ接してみると、とても気さくで面白い人間だった。今までの偏見が、覆る。
そして今は、そこが俺が生活する空間になりつつある。友達が変われば、生活の時間やスケジュールなども、全部変わるものだ。
逆に今まで付き合っていた人間らと、俺はもうあまり接しなくなった。
というか、クラスのみんなが俺の”失恋”騒ぎで騒ぎだしたのだが、直に中間試験の話などが重なったため、そこまで大袈裟には噂にならなかったためだ。
まあ、このクラスの中では、俺に対して巴やらの言葉を出すのは、何故がタブー視されている傾向があったが。でも、正直それくらいが心地よかった。
正直、今更あのことを言って欲しくない。そういう感情が、あった。
「ふふ、あの問題はな、実は余弦定理という定理を使えば簡単に解けるのだよ」
得意げな表情で、新は自分のノートを俺の前にだす。こいつ、俺に朝説明するために態々用意していたらしい…。
暇人が。そう、内心毒づく。俺より頭がいい新、そして俺よりも遙かに使い込んだノート。
表紙に書いた『数学』という文字はそっけないが、中身のノートの細かさが、新がどれだけこのノートを開いているのかの証明のように耀いているので、ノート自体はとても年季が(?)入っている。
おれはそのノートを見るたび、俺もこうならないといけないなと…実感する。
教室の中にも、ちらほらと人が集まる時間帯。何人か俺に手くらいは振ってくれる。しかし、話したことは無い奴らが多い。
……入学してこの方、梓とかしかツルんで無かったからな……。ちょっと、後悔だった。
そん中、俺が新とずっと数学の問題について話していると、ふと、俺の隣に一人の人間がたつ。
俺が何気ない気持でそっちを見ると、そこには見たことも無い表情をした梓が仁王立ちで居た。
…顔は、笑っていなかったが。見上げる形で、その顔を凝視する。
「あ、木尾梓…っ」
梓が苦手な新は、一瞬体をこわばらせるが、しかし梓はその新を眼中にすら入れた様子は無かった。
俺のことをすっと、一直線に見て、話しかけてくる。正直、困る。
「和の字、ちょっと話があるんだけど、いいか?」
いつも通りの口調。しかし、俺は理解した。そのうらにある梓の本当の気持を。
そして同時に感じる。梓の、心の中の怒りを。それは、多分翼が感じていたものと同じもの。
あの日から、翼は俺と一言も会話しない。やたらと毎日薫と一緒に居るところを見る。一緒になっても、お互いが避けあった。
翼はいつも俺と薫が話しそうになると(専ら薫が、だが)現れ、連れて行った。強烈な意識と、無視だ。
「……今、忙しいんだ」
それを、俺は拒絶する。真剣な人間の提案を拒絶するのは思いっきり勇気が必要だったけど。
しかし、一向に梓は引かないようだった。そうだった、梓は、そういう人間だった…。
「…和の字、私には、一言も相談は無し?」
「部活行けよ、梓。お前、もうそろそろ大会…っ!」
無視して机のほうに視線を戻した、これ以上は、目線を合わせていられる自信が無かったためだ。
俺が梓から視線を外して、問題集に目を落とした瞬間、俺の体は吹っ飛んでいた。
「―――っ!!」
「久良木っ?!」
無様に椅子から転げ落ちる俺。それを唖然とした様子で見るクラスメイト。
よく見ると、教室の扉の向こうから、不安げな千佳ちゃんが表れた。
とととっと、梓のほうに近づいていくと、
「あ、アズっち!! だ、ダメだよ!」
「ちょっっっ、木尾さん!?」
がらっと、新が席から立ち上がるのと、千佳ちゃんが梓を止めるのは同時だった。
梓は、二人を交互に見渡し、そして一言「どいて」と言う。俺は新に守られたまま、立ち上がらなかった。
どちらも、どかないのが、ちょっとだけおかしかった。梓の、困ったような嘆息。
その嘆息は”最終警告”だった。多分、梓は俺を本当の力ずくでも連れて行くだろうと、想像できたからだ。
「木尾さん、今日のところは教室から出て行ったほうがいいよ。大会もあるんだし、人目もあるから…」
「あずっち…いきなりは、ダメだとおもう…」
二人の静止。しばし、沈黙。
ふうっと、溜息をはき、小さく「わかったよ…」と口にする梓。
折れたのは梓だった。しかし、その声は全然言葉とは正反対の感情を含んでいた。
そのまま俺の前まで来て、倒れている俺の手を持ち、強引に起こす。
「和の字、ボクは納得してないからね」
最後にそう一言言うと、梓はそのまま振り返らずに教室を後にした。
俺はその様子を、黙ってみているしかなかった。
殴られた顔は痛かったが、心はまったく痛くなかった。
これでいい…そう、思う。俺には、もう、関係ないんだ。
その後、学校では暴力問題だのなんだと話題になったが、クラス全員が(新の協力で)白を切りとおし、当の本人である俺やら梓も白をきった。
「ったく、あんまり俺に面倒なことさせないでくれよ?」
と、新は笑っていた。本人の話だと、新はなにやら権(ちから)を使ったらしい。
それがどういうツテの力なのかは知らなかったが、中間試験やら大会やらのせいで、俺らの事は噂にすらなることも無く、俺達の胸のうちだけにしまわれておくことになる。
その数日後。俺は、中間試験前の最後の休日に、町へと出ることにした。
それは丁度切れた文房具を補充する意味合いも会ったし、新が絶讃してオススメするDr.グリップのシャーペンを買うためでもあった。
最近だが、勉強をするためには、気力などとは他に、文房具などのツールも必要なのだと、強く思うようになっていたので、丁度買いに行くことにしたと言うわけだ。
しかし、本当に理由がそれだけかと聞かれると、俺は分からないと答えただろう。
実際、大半は、なんとなく…、なのだから。理由は無い。それが、主な理由だった。
「………」
俺は、町の、一番大きなショッピングモールの前に立っていた。ショッピングモールといっても、半分デパートに吸収されるような形のショッピングモールだが。
一つの長い中央道の左右に店が並んでおり、その右側の大半はデパートへの入り口というなんとも意味不明なモールだ。
そこには様々な店があり、そして様々な人がいる。今日は休日というコトもあり、知ったような顔、知らない顔、様々な人間が往来している。
その誰もに物語があり、ここに居る理由があるのだと、そう漠然と思う。信じられないが、それは真実なのだろう。
そう考えると自分なんかは、その多勢の中の一人なのだと、再認識する。自分が消えてしまったのではないかと勘違いする。
いつも翼と一緒にしか来ていなかったせいか、今日はショッピングモール全体が、妙に大きく見えた。
それに前とは違うところにも、多く目がいく。その度に、翼やら、薫との思い出が思い出された。
その思考を、かぶりをふって打ち消す。もう、関係ないことだ。
自分に言い聞かせる。数秒、もしかしたら一瞬かもしれないが、目をつむり、そして再び町を歩き出した。
まるで、違う世界にきてしまったかのよな錯覚。
そんな中、一人の人間だけが、俺には切り取られたように見える。
「薫………」
そう、そこに居たのは薫だった。思わず、呟いてしまった。
相変わらずの完璧な微笑みと、誰に対しても平等に接してきた完全無欠な”理想”の少女が、そこにはいた。そして、その少女は、俺のことをじっと、見ていたのだ。
多分、俺が彼女を発見するより、ずっと前から。多分、俺がここに来たときから見られていただろう。
だから、俺が振り返ったわずか一瞬の間に、俺と眼があったのだから。
「和人、お久しぶりですね」
にこりと、笑う薫。今でこそ演技がかっているように見えるが、前までは俺の中での完全な理想だった少女だ。
「ああ……そう、だな…」
無意識の内に、言葉が出てくる。頭では何を言っていいか整理がついていない、それでも口は動いた。
今まで薫と過ごしてきた日が、俺をそうさせるのか。もしくは、目の前の少女に対しての罪悪感がそうさせるのか、それはわからないけど。
俺にはよく分からなかったが、何故か俺は、薫と普通に話していた。いや、普通ではないのだろう。もう、夢は終わったのだから。
「買い物ですか?」
それでも、その少女は微笑を浮かべたまま、おれにそうゆっくりと聞いてくる。
その様子が、まるで俺を受け入れてくれるような、まるで守ってくれるようなイメージを抱かせるほど、薫の言葉は優しかった。
俺は、その誘惑の一歩手前で踏みとどまる。これ以上は、進んではいけない。
「ああ……丁度、文房具を、買いにな」
あくまで、他人の会話。それを強く意識する。何気ない、会話だ。
今までのような会話ではない。明らかに、ぎこちない会話。俺が無理している証拠だろう。
―――ったく、こんなにもまだ、俺は引きずり続けているのか。内心でそれを認め、苦笑すると同時に強く恥じる。
俺は関係ない、俺は、もう、関係ないのだから―――っ。
心を殺し、自分を騙し、感情を思い込ませ、同時に自らの人間性すら上書きする。
だが、それでも目の前の少女は、笑っていた。俺のそんなちゃちな無理を見抜いているかのように微笑む少女。
「薫は…待ち合わせか?」
「…はい。あの子と…」
態々、”あの子”と呼んだのは、薫の優しさなのか、それとも只単純に話題に出したくなかったのかは定かではなかったが、俺はその心遣いすら感謝した。
薫だけは、俺になにも聞かなかった。流石に最初は面食ったらしいが、それからどこかの誰かみたいに俺を問い詰めることもしなかった。
ましてや、殴り飛ばすこともなかった。只、遠くなったような、印象を持ってしまう。それは、仕方の無いことなのだろう。
…仕方が、ない、のか………?
「…巴、か…」
薫は、俺がその名前を出したことをすこし意外そうに首を傾げたものの、数秒遅れて「はい…」と頷いた。
「…まだ、お互いに友達なんだな…」
その言葉に、少し悲しそうな表情は浮かべるものの、何も言わない薫。まったく出来た子だと、本当に感心する。
薫にとって、未だにやはり大切な友達なのだろう。同時に、この俺も、未だに―――。
いや、逆だ。もともと、俺が新参者だったのだ。最初から俺が入り込む余地など、無かったのだろう。
そして、俺にはもう関係ないのだが。俺には、そもそも関係なかったのだ。
あれは、夢。厳しい現実の波を泳ぎ着かれて、ちょっと休憩していただけ……。
巴は巴の、人生をこれから生きていくことだろう。
そう、俺にはもう―――っっ!!
「薫、待たせたな」
突如、背後、声が生まれる。それは予測できていたけど、体が、一瞬だけど震えた気がした。
「すまん、予想以上にバイパスが込んでいてな…ん? ………ああ、久良木 和人か」
俺のことを、俺が知らない笑顔で見る巴。その瞳に見つめられると、何もいえなくなる。
その表情が俺には知らないもので、俺の心が悲鳴を上げる。
心が、壊れそうだった。もう、駄目かもしれない…涙が、出そうになるのを必死に抑えた。
「…薫、今日は久良木も誘ったのか?」
俺が何も反応を返せないでいたので、巴が今度は薫に聞く。
薫もうっすらと「いえ、誘っては居ません」と、控えめに答える。
俺はその会話を遠くで聞きながら、やはり俺はもう”いないのだ”と、再認識した。
俺は、ここにいてはいけないのだろう。ここにいることすら、予定外なのだ。
夢は終わった。もう、永遠に交わることは無い。
悲劇の主人公は家に帰る時間だった。
「私は別にかまわないぞ? 大人数の方が楽しくていいじゃないか? それにどうせ、暇なのだろう?」
―――。
ニコリと、笑う巴。今までに、見たことが無い表情。今まで、俺が知らなかった巴の表情。
嬉しそうに、普通の女の子のように、自然に、ふわりと、風のように、それでもって凛とした雰囲気で、笑う少女。
―――俺は、もう、いらないんだろうな…。
その笑顔を見ると、今までの胸の痛みが、すっと、引いていった。今までの苦痛から、救われた気がした。
俺は、もう、巴の幸せに、必要なのかもしれない。そう、思えた。心の底から、そう思えた。
「…じゃあな…薫…森崎さん…俺、行かなくちゃいけないんだ。精々、休日を愉しんでくれよ……お二人さんっ!」
俺は二人が意外な顔を―薫の泣きそうな顔を、巴の純粋に疑問の顔を―これ以上見て居ることが出来なくて、その場を後にしようとして背を向けようとする。
だが、ココロは、痛くなかった。これから、多分永遠に交わることも無いだろう。
俺はもう巴の人生に必要ない。俺が居なくても、多分巴はちゃんとやってくれるだろう。
薫に関しては心配はいらない。俺なんかより、何倍もいい男を見つけて、幸せな家庭を築けるだろう。
梓も心配ない。先輩を怖がらないと豪語したあいつのことだ。放って置いたって、大丈夫に違いない。
ああ、なんだ、俺は、最初から、付け入る隙なんて、無かったんじゃないか―――。
苦笑。
「和人………」
悲しそうな薫の声。
「んじゃな、二人とも―――」
「…ぁ……ぇ?」
その、瞬間だった。巴の頬を、一筋の、涙が伝った。
………………………………………………………………………………………。
「な、何で……」
泣いている当の本人すら、混乱している様子。
俺らは巴以上にその状況を理解できないまま、巴をただ見ていた。
「巴……」
「……と、もえ……」
薫の、まるで呼吸をするトーンと同じトーンで吐き出された呼気。
その言葉が、全てを物語っているような気がした。
「す、すまん…何だか分からんが……その…とにかく、すまんっ」
それだけ言い残して、巴は再び街の雑踏の中に消えてゆく。
また、二人だけになった。
「……」
「………」
それを、何も言えずに見送る二人。無言、言葉はいらない。
遠くへと消えて言った巴を見ながら、二人の間の空気が軽くなるのが分かる。
ココロが、また相変わらず痛くなるが、今度は逆に心地よい痛さになった。
心の”殻”が崩れ、むき出しのココロが自分の中で誕生する。
そんな、まるで生まれ変わったような、感じ。
「……和人…」
そう、一言。だが俺は、それ以上に話を続けるつもりは無かった。
「…すまんな、薫。やっぱ俺は…」
それだけ言うと、俺は雑踏に駆け出して言った巴とは反対の方向へと、足を向けた。
巴のために俺が出来ること。それを、今やるべきだと、思ったからだ。
正直、今、俺が何をすればいいのか、分からなくなった。いや、本当のことを言えば、最初からわかっていたのかもしれない。
ただ、理由が欲しかっただけなのだ、現実から逃げる免罪符が俺は欲しかっただけなのだ。
そしてそれを一瞬でも手に入れた気がした自らを恥じた。
なんだ、それはとても単純なことだったんだ。
――――――昔。
昔、男の子と女の子が居た。二人は最初、全然知らない他人同士だった。
最初に話し掛けたのは、男の子だった。それから、二人は出逢った。
二人は仲がとてもよくなった。一番の親友になった。
そして、男の子は女の子の事を好きになった。
女の子も、男のこのことを好きになった。
二人は、幸せだった。だから、男の子は約束したのだ。
自分との、やくそくだ。女の子を絶対泣かせない、と。
女の子が、最初は笑ってくれなかったけど、でも段々と笑ってくれるようになったから。
男の子は、二度と女の子を泣かせないと、自分とやくそくしたのだ。
だから男の子が、女の子の変わりに死にそうになっても、男の子は誇りだった。
女の子を守るのが、男の子の役目だからだ。
でも、女の子を折角守っても、最後に見れた顔は、女の子が泣いている顔だった。
それが、男の子は凄く悲しかったんだ。
男の子は、自分と約束したのだから。
もう、二度と女の子を泣かせない―――と。
自分でも単純なくらい、本当に答えしかないのに、答えに気づいていなかっただけなんだ。
「二度と、”なかせない”…か…」
今になって、また記憶が思い出される。一番大切なシーン。
一番大切な思い出が、今になって―――。ずるいよ、神様。
心は、もう、痛くなかった。