それは舞い散る桜のように
とある日。
あたりはすっかり春の匂いが満ちた。
相変わらずのゆっくりとした、時間。
ゆっくりと流れる、そんな空間のなか、俺は待っていた。
待ち、続けていた。ひたすた。
何を願うわけでもなく、何を望むわけでもなく。
待ち人には、来てくれとは一言も言わず、一方的に待つのだから、これは本来まってすらいないのだろうけど。
でも、俺は待っていた。
「待ち合わせか?」
丘の上、あのやくそくの丘の上、声が響いた。
今まで聞いたどの声よりも澄んで、そして綺麗な声。
ずっと、聞きたかった声。
「いいや、待ち合わせじゃない。俺が、一方的に待ってるだけだから」
声は、奇跡は、三度繋がった。
一回目は、まだ子どもだった頃。
二回目は、少し大人に成ったとき。
そして今は、さらに少し大人に成ったとき。
「そうか、いつから、待ってるのだ?」
「そんなの、対した問題じゃないよ」
目の前の女の子を眺める。
久し振りにあった二人は、お互いが笑いあっている。
「すまん、今までのは冗談だ」
「いいさ、結局、ちゃんと来てくれたんだからね」
そこに涙は無く。
只あるのは、呆然とした未来。
何も解決しておらず、むしろ前途多難。
笑う要素は零。ある意味では、この喜劇の、この最高の笑うクライマックスシーンを笑うことができる程度。
なりきれない喜劇。誰かはそう言った。悲劇だといった者もいた。
「あと、ありがとう、待っててくれて。今度は、私が遅れてしまった」
「いいよ、前は、俺が遅れたからな」
やくそくは、今から果して行くものだが。
それでも、俺は、その約束はきっと果せるだろうと、強く思った。
「それにしても、お前の冗談は、わかりずらい」
「すまんな、まだ、私には色々無いんだ」
「ま、これから補って行けばいいんだ…だろ?」
「ああ」
こうして、二人は出逢った。
この丘の上、結局、最初から何も変ることの無いというエンディングで。
「和人、好きだぞ」
「ああ、俺もだ、巴」
声は繋がった。
何回だって奇跡はおきる。
だって、今日はこんなにも快晴。
大きな桜の木が、力いっぱい裂いている――――――。
それは今から始まるストーリー。
故にこのエンディングは、きっと次へと続いていくプロローグ。
それは、桜の花びらが舞う頃に始まる、ひとつの物語。
〜Fin〜