+    +    +    +    +    +    +

+    第一話『 予想もしない”急展開” 』    +


『ようこそ、スペースコロニー”カグラ”へ。歓迎します』

ボソンジャンプ用ゲート、通称チューリップを通り抜けた私たちは、早速A.I.により歓迎を受けた。

「こちら、ネルガル社所属起動試験艦ナデシコC。私はその艦長、ミスマル=ユリカです。コロニー内までの誘導をお願いします」

そのA.I.に丁寧に答えるユリカさん。

『わかりました。スペースコロニー内まで、誘導いたします……』

「誘導信号キャッチしました。この後、艦は自動モードに移行してください」

すっかりとオペレーターが板についてきたユキナさんが、そう言う。

「了解です。自動モードへ移行………」

私はその命令どおり、オモイカネにアクセスし、自動モードへとナデシコを移行した…。

スペースコロニー『カグラ』に、地球より3時間あまりで到着したのだった。

 

「ん〜あぁ! やっぱり外は気持ちいいわぁ!」

さっきまでの調子はどこへやら。

すぐさま子供のようにユリカさんは思いっきり背伸びをした。

アレから1〜2時間ほど、私とユリカさんと、ミナトさんの三人組はショッピングを楽しんでいた。

もっとも、私はずっとユリカさんについて行っただけだったけど。

まだ、少し女の子の感覚というものが分からない。

でも、段々と、学んでいかなければいけないと、思う。

色々、と。

「まあ、ね。ずっと戦艦内にいたんじゃあ、疲れちゃうもんね」

ばちっとウィンを決め込み、ミナトさんもん〜っと背伸びをする。

「そういえばミナトさん、ユキナさんは?」

あたりをくるっと見渡してみて、姿が見えない様子なのでとりあえず保護者のミナトさんに聞いてみる。

「あぁ〜ユキナは、なんか友達にメールとかで、部屋に入っちゃってるわよ?まったく、子供なんだから………」

はぁと呆れたようにため息を出すミナトさん。

……ミナトさん、そうするともうオバサンみたいです……まだ若いのに…。

「ん? 何か思った? ルリルリ〜」

「………………いえ、何も」

私はそ知らぬ顔であさっての方向を向いた……………。

 

外は、気持ちよかった。

それはやはり遺跡にアレだけの時間を接続され居たからだろうが。

それとも……アキトとずっと会ってないからだろうか。こんなに寂しいのは。

とても苦しかったのを覚えている。

あの日、私たちは見知らぬ人に連れて行かれ………………抵抗したアキトは………、、、、。

ぐっと、唇をかみ締める。

そして、しっかりと前を見た。

―待っててね、アキト。絶対……探してあげるからね―

そう、誓った。

「あの……ユリカさん?」

と、そんなことを思っていると、下のほうからルリちゃんの声がしたので、声のほうを向く。

そこには、一人の、少女。

ルリちゃんは、はっきり言って別人みたいだった。

とてもしっかりしてて、ルリちゃんが戦艦一隻の艦長にまでなっていることを知り、とても驚いた。

なんでか、遠くに行ってしまったような……そんな感じがした。

もう、私はルリちゃんの中では、なんでもない存在なんだって、思った。

だから、プロスさんがナデシコの話を持ってきてくれたとき、私なんかが何をすればいいのか、分からなかった。

だって、ルリちゃんの方が相応しいのは明白なんだから。

それでも、お父様は『行ってやれ。ルリちゃんは、きっとお前を待ってるぞ?』って言ってくれた。だから、来た。

そして分かった。

でも、中は何も変わってなかった。あの、楽しいころと。

「ん? なぁに、ルリちゃん?」

「いえ………………何も……………」

呼びかけに答えるも、ルリちゃんは何故か下を向いてしまった。

恥ずかしがっているようにも思えるが、それ以上に嬉しさがあるのだろうか?

「ん………もぅ! なによ………ルリちゃん」

いぢらしくなった私は、一気にルリちゃんに抱きつく。

その好意に少し恥ずかしいのか、顔を赤らめながら、

「いえ………なんか、実感が沸かなかったから…………また、居なくなってしまいそうで………これも、夢の、ようで…」

そう、小さく言った。

―か、カワイイ〜〜〜〜―

「も〜ルリちゃん大好きだよ!!!」

私は一層ルリちゃんを強く抱きしめる。

もう、どこへも行かないから。そんな気持ちを含めて。

「………痛いです、ユリカさん………でも………」

クスっと、耳元で、ルリちゃんが笑った。

「とても・・・暖かいです」

ルリちゃんは、ルリちゃん!!

 

…。

そんな時。

『おー! 艦長さんよ!!』

いきなり通信機器からウリバタケさんの顔が出てきたので、私たちはびくっと体を震わせ、離れた。

『こっちは整備終了したぜ? あとは……って、ルリちゃん……なんで怒ってるんだ?』

何も知らないウリバタケさんが聞く。

「あ、いや、私は……なんとも………」

―タイミング最悪だよ……ウリバタケさん………―

私は苦笑いをしながら、答える。

プツンと、通信が終了した。

その間にもルリちゃんはだんだんと深刻な顔になってきている。

こ、怖いよルリちゃん!!!

『オモイカネ……おしおきしておいて……』

「え? 何かいった? ルリちゃん………?」

「いえ、気のせいでしょう」

そう言うと、ルリちゃんはさっさとナデシコへと、足を向ける。

その間、倉庫では…………。

 

「う、ウリバタケ班長!! き、機械が勝手に………うわぁぁ!!」

「な、なんだなんだ!! 敵のハッキングか!!! おい、野郎ども!! 気をつけろ! エステバリスに指一本でも触れさせんじゃね!!」

「そ、そんな事いっても………ああ!! ウリバタケ班長!! ドアが! ドアが!! 閉まるーーーーぅぅぅっ!!」

「な、なんだと〜〜〜」

…………死闘が繰り広げられていた。

自業自得です。(ルリ天の声)

 



「さてと。それでは、次の目的地は、どこにしますか、艦長?」

そうミナトさんが聞いたのは、倉庫の騒動からさらに1時間ほど経ったときだった。

「そぉね〜。とりあえず一番近いスペースコロニーに来てみたんだけど……」

その先を考えてなかった……。

私は内心焦っていた。

アキトを探す! といっても、目撃証言すらないのだ。探しようがない。

この巨大な宇宙をしらみつぶしに……なんてしていたら、人生が何回廻りようが、不可能だろう。

と、そんなことを内心考えているとき、ルリちゃんが言った。

「ユリカさん……緊急通信ですけど……開きますか?」

「え? 誰から?」

緊急通信というのは、余程の大切な用事でなくては使用しない通信方式のことだ。

普段の通信はある程度、プロテクトをかけてブロックできるが、緊急通信は絶えず明けておく。

まあ、緊急通信にもプロテクトをかけることは出来るが、その場合、その戦艦は敵とみなされても文句は言えない。

「えっと……差出人は………ジュンさんです。どうしますか?」

アオイ=ジュン中佐からの通信……ジュン君がそんなに急ぎの用を?

それに、さっき分かれたばっかりだよ?

「うん、繋いでルリちゃん」

「了解………」

ルリちゃんがすっとIFSをコンピューターに接続させ、画面に通信を表示させる。

『ユリカ!!! 大変なんだ!!』

……開口一番が、其れだった。

「あ! ジュン君! ひさしぶりぃ〜って、5時間ぶりだけどね? さっきはありがとうね、荷物もち! もー重たかったでしょう?」

とりあえず挨拶をしてみた。

『え、うん。あはは、いや、別にユリカのためなら……………っっって! そんなことはどうでもいいんだよユリカ!!』

「どうでもよくないよ!! 私、凄く嬉しかったんだよ!!」

「あ、う、ご、ごめん、じゃなくてーーーー!!!!」

バン!と、机を激しく叩く音が船内のコックピットに木霊する。

「…………どうしたの?ジュン君?」

ミナトさんがその様子にも動じた様子もなく聞く。

あれ? 何で皆あきれた顔をしてるんだろ? え、私?? 私なの?! 私が何??!

『大変なんだ! 草壁 春樹と、山崎 良夫が何者かに連れ出されたんだよ!!!!』

……………

私はその名前を聞いたとき流石に一瞬、恐怖を思い出した………。

クサカベハルキ。

ヤマサキ。

人道を外れた実験の数々………。

人を人と思わぬ、残酷な行為。

ヤマサキ ヨシオ………………………。

私たちを■して、■した、あの、人間―――。

一瞬、目の前が真っ暗になる。

『地球連合が幽閉していた牢獄から連れ出されたんだ!! S級の装備をした牢獄から、だよ! しかも………敵は戦艦で単体ボソンジャンプで来たらしい』

単体ボソンジャンプ………其れは、体がボソンジャンプに耐えることが出来るA級ジャンパーという特別体質の人間が出来る芸当。

普通はルリちゃんみたいに遺伝子を操作するか、チューリップ(と呼ばれる非ジャンパー体質をボソンジャンプさせるゲート)を通ったときみたいに高出力のディストーションフィールドを張ってのジャンプは可能だ。

しかし、チューリップも使用せず単体ジャンプとなると、限られてくる。

私が知っているだけで、A級ジャンパー体質の人間は6人………。もっと居たけど、大半が”飛行機事故”で死んでしまったのだ。

勿論それは、例の、実験。

実際、草壁の配下には遺伝子操作をした人間が大量に居たらしいが、それも全員捕らえられてしまっている。

話ではアキトがやっつけたらしい、けど……。

でも、戦艦一隻を飛ばすとなると、そういう改造した人間では無理だろう。

やはり、可能なのは6人のみ。

しかし、一人はアキトの手によって殺された北辰とその一味、一人は私。

後の二人はこの船に乗船しているルリちゃんと、イネスさんだから……………。

―アキトッ!? それに……ラピスちゃんとか言う、ルリちゃんと同じ境遇の、女の子………だけ―

「アキトなのっ!? ねえ、ジュン君……っ?!」

『わからに………とにかく、スペースコロニー”サツキ”に来てくれ!!』

急いでジュンは通信を切ろうとする。その刹那、

「あ、ジュン君! 待って!!」

私はジュン君を呼び止めた。

『な、なに…ユリカ?』

「ありがとね、ジュン君………」

私はお礼を言った。

そのお礼にジュン君を少し照れた様子で、通信を終了する。

「ねえ……次の行き先………って、聞くまでもないわね?」

ミナトさんがそう言う。

「目標、スペースコロニー”サツキ”。座標確認をお願いします」

私は、力強く、そういった。

 



『ようこそ……スペースコロニー”サツキ”へ。今現在、サツキは通行できませんので………』

チューリップから出るなり、連合のオペレーターだろう、人が出て、言った。

「こちら試験艦ナデシコC艦長ミスマル=ユリカです。アオイ=ジュン中佐をお願いします」

そう、負けじと言い返す私。

『…ミスマル? …………ま、まさか! ミスマル総帥のお嬢様でありますかっ!!』

オペレーターは私の名前を聞くなり驚きの声を発する。

『話は聞いております! も、申し訳ありませんでした! どうぞ………!!』

ぷつん……と、其れっきり連合軍からの通信が途切れる。

「………お父様が、手を回しててくださったみたいですね? いやはや、私企業に肩入れすると、総帥も肩身が狭くなるというのに…」

私の後ろに居たプロスさんがそう、言う。

―ありがとう……お父さん―

「さあ、艦長。感謝は後でするとして、今は」

月臣さんも、そういってこくっと頷く。

「ええ、ナデシコ前進。これより、地球連合宇宙軍戦艦『アマリリス』と接触します。コンタクトをお願いします……回線、開けますか?」

私たちはそのまま、スペースコロニーサツキへ、向かった。

 



『ユリカ!遅いよ!!』

ぴっと、表示されたウィンドウに現れたのはやはりジュンだった。

「ごめんね、これでも相転移エンジン120%使用で来たんだよ?」

……ちょっと整備班の人たちが文句言ってたけど。

ま、非常時ってことで♪

『そ、そうなの?あ、危ないなぁ…………と、とにかく!! このデータを!』

そう言うとジュンは何かのデータを転送してくる。

「転送データ、再生しますか?」

と、ルリちゃん。

「うん、今すぐメインウィンドウに出して!」

私はそのウィンドウを凝視する。そして……。

それを見て、絶句した。

 



『止まれ〜〜止まらないと!! ……ぐあぁっ!!』

次々となぎ倒されてゆく警備員。しかも、この警備員は別に雇われ警備員ではない。

その道のプロだろう。

そのまま戦争に出しても、十分通用するようなプロだ。

「ほぉ、素晴らしいですな〜訓練された兵士を、次々と………」

プロスさんなんぞは先ほどから感心しきりだ。

「お、お兄様………アレは…………!!!」

と、月臣さんの妹さん、カエデさんが兄の元一郎さんになにやら言っている。

「ああ…あれは……・形こそ変化しているが……木蓮式柔術『柔』に違いない………」

苦々しく言う月臣さん。

「そんな……じゃあ、アレは……アキト!!!」

画面の中心に居る人物は紛れもなく、アキトその人だった。

全身を黒い戦闘服に身を包み、次々と華麗な動作で兵士を投げ、撃ち、そして弾く。

まるで体全身が凶器のように手当たりしだいの兵士を、倒していっている。

「そんな…アキトさんなはず………ありません!!!」

と、大声で言ったのはルリちゃんだった。

「アキトさんは……………………五感が……………っ」

そこまで言って、ぐっと押し黙る。

そう、アキトは火星の後継者たちに捉えられ、非人道的な人体実験を受けた才の後遺症で五感を失っていたのだった。

そのための、ラピスという女の子だ。

あの子が居れば、アキトはラピスの助力によって五感を擬似的に取り戻すことが出来る。

「確かに……その………例の少女、ラピスちゃんってこの姿は見えないけど……でも……」

流石に疑いようがない。ミナトさんも、そこまでいって沈黙している。

「似ている……よね……アキトさんに………」

ユキナちゃんも、そういった。

そして、やがて、アキトと思しき人物は、画面の中心あたりに来ると、ふっと、消えてしまう。

「……ボソンジャンプ………決定的ね…………」

いつの間に現れたのか、イネスさんが言う。

「なあ、これ……………本当にテンカワなのかよ!! なぁっ!??」

リョウコさんはすっかりとうろたえてしまい、興奮仕切りだ。

私も、必死にアキトだと思う気持ちを押さえつけるが…………。

そこで、映像は終了だった。

 

『ユリカ!! 見た…っ? これは……一体……』

ジュン君が興奮していた訳がやっと分かった。

まさか……アキトが。

そう思わずには居られない。

「いずれにしろ、調査をしてみたいことには、どうにもな、ユリカ艦長」

私を励ますように月臣さんが言う。

「…………………………………これより、ナデシコCは…スペースコロニーカグラに…入ります…誘導を…お願いします…」

しかし、私はこう言うのが精一杯だった。

『ユリカ……………』

画面の中のジュン君も、すっかり沈黙してしまう。

艦内に重々しい沈黙が、流れる。

 

「ちゃんとした、理由もあるわ………」

そういったのは、私の隣に座っているイネスさんだった。

「復讐………ですか」

月臣さんが、その言葉に同調するかのように呟く。

その言葉にコクリとイネスさんは頷いて、

「ええ、自分をこんな体にしたヤマサキと、それに中心人物である草壁中将には少なからず、恨みがあると思われるわ」

確かに、そうだろう。

でも…頭のどこかでは、認めなくないと、思っている。

あの人が…そんなことをするはずがない! と、心のどこかで。

「でも、変ですよ! 絶対……今まで、アキトさんは火星の後継者との関係がある”可能性”だけでコロニーを壊していたんですから…」

そう、そして、数多い命を、奪った。

その言葉を聴いた途端、カエデさんの体が少なからず強張ったのが見えた。

ルリちゃんも、さっきの言葉以来、沈黙してしまっている。

「でも、手口が変わったのは言えている。それに、北辰ならともかく、ヤマサキと草壁は普通の人間で、死刑囚。それをわざわざ連れ出す必要が…テンカワにはあるのか?」

月臣さんは先ほどから、独り言のように言葉を発する。

その言葉を拾ったのが、私だった。

「あります……ひとつだけ。自らの手で……裁きを下すため………」

そう、自分で言っていて、一番苦しいのは私だった。

「言い方は乱暴かもしれないが、それなら、テンカワ君のことだ。態々生身でジャンプなどしないだろう…きっと、”ブラックサレナ”で一気にカタをつけるに違いない」

暗鬱とした表情で言う月臣さん。その横で、うなだれている楓さん。

アキトが……そんなことをしているんなんて、信じたくない。

でも、それは、現実なのかも、しれなかった。

「どっちにしろ、結論を急ぐのはよくない。この話は、とりあえず一晩置くことにしよう……」

そういって、真っ先に月臣さんと、カエデさんは席を立つ。

「オレも………ちょっと、混乱してる………悪い、先に寝るわ………」

リョウコさんも、そういって席を立つ。それに同調するかのょうに、ミナトさんと、ユキナちゃん。

そして……プロスさんとイネスさんも席を立って、居なくなってしまう。

やがて……残ったのは、ルリちゃんと私だけだった。

「………ルリちゃん……あれは…アキトなのかなぁ?」

これを聞くのは酷だということが分かっていながら、私は聞く。

「違うと思います…………これは、勘ですけど」

「ルリちゃん………?」

だが、予想とは違う答えに、私はルリちゃんを凝視する。

そこには、私より遥かに強い視線で…。



「信じましょうよ、ユリカさん、アキトさんを………」

 

という、ルリちゃんが居た。


+    Before    +    Index    +    After    +