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+    第二話『 ”真実”はどこにある? 』    +


私は、すうっと息を吸い、とある部屋の扉の前に立ち……そして、勇気を出して扉を開く。

 

「あのぉぉ……………ミナト、さん?」

そう恐る恐る、私−白鳥 ユキナは聞く。

この艦に無理やり、ミナトさんの同意を得ずに乗ってからと言うもの、何故か私はミナトさんとは話していなかった。

まあ、周りの事態が事態である、ということはあるのだが。

「……やっぱり、怒ってる?」

そう、聞いてみる。

しかし、その質問を聞いてもミナトさんはうんともすんとも言ってくれない。

うわぁぁ〜、怒ってるよ……ミナトさん。

私は過去、何回かミナトさんの”本気”を見たことがあるが………。

あんなオモイは、二度としたくない。

それでも、今回の問題に関しては、しっかりとミナトさんに話しておきたかったのだ。

そりゃ、ミナトさんには黙ってオペレーター学校に言ってたこととか、無断で学校を休んでいたことは認めるし、悪いとは思っている。

ミナトさんも、私のことを思ってくれ、学費やらなにやらを出してくれていたのだし。

それに……形はどうであれ、ミナトさんを裏切ったのには変わらない。

でも、これはちゃんと自分で考えて決めたことだ。

そのために努力もしたし、それにちゃんと給料に見合う分は私も働くつもりなのだし。

「………ミナトさんっ!! む、無視しないでってば!!」

「はいはいい、ユキナ。聞こえてるってば〜」

どうやらミナトさんは化粧中だったらしく、鏡に向かったまま、言葉を返す。

「私……私、しっかりとやるよ! う、ウソを付いていたのは謝ります! 本当に、本当に悪いって思ってるんだよ!! でも、でも、これは私がよく考えて決めたこと。本当に、一晩とか二晩じゃないんだ、それこそお兄ちゃんが死んだときからずっと、ずっと考えてたこと…ミナトさんにはウソを付きたくなかったって言っても信じてもらえないかもしれないけど、それでも、やっぱり私、お兄ちゃんと同じ宇宙船にのって見たかったし、お兄ちゃんのこと、もっとよく知りたかった。だから、だからだから…………っ!!!」

「ん!完璧!」

と、私がそこまで言いかけてミナトさんはくるっと椅子を回転させてこちらを向く。

そして、すっとやさしい顔をして、

「ユキナ、私、思ったんだ…もしかしたら、私、ユキナの可能性を縛っちゃってたのかなって………」

ミ、ナト、さん? ……笑って…?」

と、言った。

「私……白鳥さんが死んでから、誓ったの。貴方だけは………きっと、幸せにしようって。だから、自分の心を鬼にして今までやってきたわ。あの人を、悲しませるようなことしたくなかったから。だからね、ユキナ、私、『もしも』が、怖かったの…。」

そのまま、私に抱きつくように、ミナトさんは私を抱き寄せる。

すごく……暖かった………。

「色々考えちゃうの、おばんさんだからね…。もし、私が無茶をさせて、ユキナが怪我をしたらどうしよう、とか…色々、もう、本当に色々……」

「ミナト………さん」

私はその言葉に何もいえず、その場に佇む。

ミナトさん……こんなに私のことを…………。

そう思うと、今までやってきたことが、少しだけ、自分勝手に思えた。

今、本当に私は、ミナトさんという女性を、好きになった。

「でもね、ユキナ。私、決めたわ。ユキナを…………信じる。信じてみるわ」

そう言うと、そっと、私から離れるミナトさん。

そして綺麗に笑顔を作ると、

「だから、ユキナ、頑張りなさい! 私、応援するから」

そう、力強く言ってくれた。

「うん……っっ!! ありがと、ミナトさん……………っ!!」

私は再び、ミナトさんに抱きついた。



 

「やっぱり………………間違いないですよ、ユリカさん」

私、ホシノ=ルリは、先ほどからジュンさんから(基、強制的に地球連合軍のデータバンクにハッキングして手に入れた)画像データを分析した結果、ひとつの結論へとたどり着いた。

「この画像の人は、アキトさんに近いですけど、違いますよ」

そう、この画像の人間はアキトさんではない。

アキトさんでは、ありえないのだ。

「どういうこと、ルリちゃん?」

横にいて、先ほどから喜びの絶頂のユリカさんが聞いてくる。

「この画像のテンカワ=アキト似の人物は、身長や体格の発達状況から見て、若すぎるんです」

『それじゃあ、この画像に移っているのは、アキト君ではないというのかい?』

回線上から会話を聞いていたのだろう、ジュンさんが聞いてくる。

「はい、映像を分析して、腕の長さや警備の人達を基準として考えた場合、このアキトさんは、おそらく2〜3年前のアキトさんと同じ体格をしているんです」

そう、あの、ナデシコに乗り、宇宙中を駆け回ったあのころの………アキトさんと、同じ。

「ですが、世の中にこんなに似た人間が………居るでしょうか? 他人の空似って可能性もあります。ただ、単独ボソンジャンプが可能な他人となると…………」

くいっと黒縁の眼鏡を上げながらプロスさんが、最もな疑問を口にする。

「考えられる可能性としては……テンカワさんのクローン人間である……という可能性、というか、それ以外説明は無理です」

私は、可能性のひとつを、述べる。

「それこそ、考えられないわ! 現在ネルガルの最先端技術をもってしても、クローン人間は作れるけど、ボソンジャンプ耐久の体質を受け継がせることは、不可能!!」

しかし、その言葉をイネスさんは全力を持って否定する。

「ネルガル以上の技術者……ふーむ、そのための……山崎博士……でしょうか」

木蓮、いや、全宇宙において彼以上のボソンジャンプ研究者は居ないだろう。

あれだけ、大量の人体実験を行なった……山崎ならそれだけの研究成果を出せても……不思議ではない。

「考えられないことは、ないですが、でも……」

「…時期が早すぎます」

楓さんが、遮る。

「テンカワさんの……っ実験が、行われたのは、飛行機事故のあった年ですから、今から3年前です…ソレを考えると、この年齢は…」

「ルリさんの計算では、この年齢は14歳前後、若くても13歳。3年で13年分の人間の成長を促進するのも、不可能に近い…」

さらに月臣さんが、その否定に信憑性を加えた。

そう、早すぎるのだ。

というか、山崎が捕らえられている間、彼を持続させるための研究員が必要になってくるが。

そんなもの、火星にも、どのコロニーにも見られなかった。

『うん、そんなはずはない。あの、草壁中将の氾濫の後、地球連合軍が全てのコロニーを抜き打ち査察したんだから………』

そう、研究施設と、人員がいない。

そう考えると………。

「つまり……この映像のアキトは、氾濫の時にはすでに…………?」

生まれていた?

その声は誰がいったのかわからなかった。

「とにかく、どちらにしろ山崎と草壁は何かしら関係あると見て、間違いあるまい?」

と、丁度艦長席の右斜め後ろあたりに立っていた月臣さんが、そう言う。

「おうよ! 早速見つけて、ばばっと吐かせりゃいいじゃねーか!!」

リョウコさんもその意見には同意見みたいですね。

「そんなに簡単にいくとは、思えませんが」

と最後、楓さんがそう、打ち切った。

『地球連合軍のほうでも、山崎と草壁は全力を持って、追うよ。また、あんな氾濫を起こされちゃたまらないしね』

ジュンさんも意気込んでいるご様子です。

「目的が決まったわね。ね、ユリカ艦長?」

と、イネスさんがすっとユリカさんを見つめる。

その視線にこくりと頷いたユリカさんは・・・

「それじゃあ、情報収集といきましょう。とりあえず、私たちは……………」

と、そこまでユリカさんが言いかけたとき、ジュンさん以外の通信が入ってきました。

差出人は、<アカツキ ナガレ>。

ネルガルの会長さんだ。

「ユリカさん、アカツキさんから、緊急通信です。回線、開いて良いですか?」

念のため、艦長に確認する。

何か、皆さん緊急通信しか使ってない気がするのですが…?

うーん、大半の通信は重鐘がセキュリティカットしちゃってるのが問題なんでしょうか?

「うん、お願いルリちゃん。それにしても………緊急って、一体?」

そんな疑問の声を発したが早いか、画面には暁 流さんが映し出されます。

甘いマスクに、甘い声。これで金持ちなんだから完璧だろう…………と思うのですが。

『いやぁ、みんな。元気〜?』

性格が多少、軽すぎるんですよね、アカツキさん。

緊急通信の割には、落ち着いていますね…………流石会長さん、といったところでしょうか。

『えっとね、今回は急にゴメンゴメン。ちょっと、急用だったもんでさぁ』

「で、用ってなんですか?」

ユリカさんが単刀直入に聞く。

一応雇い主ですし、少し敬意を払っては?

そんな疑問もありき、しかしアカツキさんは特に気にした様子もなく、いつもどおりの感じで

『アキトくんに関して新情報』

艦内が一瞬だけ”なんだ……”といった落胆に包まれる。

そういえば、私たちは発見直後にこのことを聞いたんですから、ネルガル企業より先に情報を知っていても、可笑しくないんでしたね。

そう言う意味では、ジュンさんに感謝です。

「あの…………アカツキさん。スペースコロニー『サツキ』でのアキトさん似の人物目撃情報は、すでに入手していますが」

私が、一応アカツキさんに言う。

『ハハ、流石はナデシコ。情報が早い、うーん、僕も乗りたかったなぁ』

しかし、そのことを聞いても、特に驚いた様子もなく、

『じゃあ、その”テンカワ君似の男の子”を、ネルガルが今、保護したって言えば、驚く?』

艦内は、絶句した。

 

「それは…………………本当ですか、アカツキさん!!」

そう声を荒げたのは、他の誰でもない、私−ミスマル ユリカだった。

『うん、本当本当。でね、ことはお願いなんだけどさぁ』

ニヤッと何かをたくらんでいる表情で笑うアカツキさん。

『どうやら、彼。訳ありみたいでさぁ、ちょっとナデシコで保護してもらえないかなぁって』

なるほど。確かに、ここなら宇宙の中でも結構安全な場所。

それに、ネルガルの直属であるこのナデシコCははっきり言って、保護に適切だ。

『どうかな、悪い話じゃないよ? 彼、エステバリスの腕も一流だから。パイロットとして♪』

そういってアカツキさんは笑う。

「………どうしますか、ユリカさん?」

ルリちゃんがオペレーター席から聞いてくる。

「………分かりました。その男の子を、責任もって我が艦において、保護させていただきます」

そう、私は答えた。

『ただ、条件がある』

その言葉に、私は少なからず身体が強張るのを感じる。

『彼の経歴、戦歴、及びそれに該当する事項への詮索を、やめて欲しい。これはネルガル会長としてじゃなくて、元クルーとしての、お願いだけど』

………経歴などの全ての事項の詮索を禁止。

なるほど………つまりは、過去のことはネルガルだけが知る、というわけだ。

何かがある、そういうこと、でしょうね。

「………わかりました、艦内の全クルーに通達しておきます」

やがて、ユリカさんがそう答えた。

『よかった、断られたら、どうしようかと思ったよ。それじゃあ、コロニー”ミナヅキ”で合流っと言うことで』

バイバイと手を振るアカツキさんがウィンドウに消え、私はふうっとため息をつく。

そして、目の前のブラウン官眺め、

「これより機動戦艦ナデシコCは、コロニー”ミナヅキ”へと移動します。座標確認、よろしくお願いします!」

そう、叫んだ。

「了解しました、座標確認………コロニー『ミナヅキ』………照合完了」

「ユリカ艦長ぉ〜、ちょっと遠いですよ? 一回”ヤエザクラ”を通しますか?」

「いえ、一気に行っちゃってください。休憩無しのフル稼働で」

「了解ぃ☆」

さすがユリカさん。もうすでに艦長さんの板がついてますね。

「相転移エンジン始動……正常機動……オールクリア」

「艦長、いつでも、発進可能です!」

私はその報告を聴くと、こくっと頷いた。

『ユリカ…………』

画面の端っこで、ジュン君が心配そうな視線を向けてくる。

「大丈夫よ、ジュン君! 安心して」

その視線に答えるように胸を張って答える私。

『気をつけてね、それじゃ』

ぷつん…………と、ジュン君の通信も終了する。

「ナデシコC、発進!!」

 

―アキト…………………………―

 

そんな気持ちを振り切るように、私は大声で宣言した。

でも何故か、胸の奥に一つの不安が、残っていた。


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