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+    第三話『 裏に見え隠れする”陰謀”?! 』    +


 

「え?覚えてない………?」

 

そう、プロスさんから言われたのは、もう少しでナデシコがスペースコロニー”ミナヅキ”に着くか着かないかの時だった。

「そうらしいですな〜、なんでも、あの少年は普通に保護、されたようで。それ以外の記憶はほとんどがないらしいです」

「あの……普通に”保護”っていうと………戦闘して気絶させたとかじゃなくて?」

この質問にコクンとうなづくプロスさん。

「ええ、とりあえずスペースコロニー”サツキ”をネルガルが潜入操作している際、サツキネルガル支部の前に、倒れていたらしいのです」

なるほど、それで保護………。

それにしても、あまりあっけない幕切れじゃないんですか?

なんか、私、ホシノ=ルリは裏に何かがあるような気がして、ちょっと黙った。

「ん〜もう、ルリルリ! なぁに暗い顔してるのよ!!」

…………これは元々です。悪かったですね、ミナトさん。

「る、ルリルリ…………もしかしてぇ〜…怒ってる…?」

様子を悟り、さっと引くミナトさん。

「いえ。それよりプロスさん、お聞きしたいのですが」

私は視線をミナトさんからはずし、プロスさんに向き直る。

「なんでしょうか?」

プロスさんの視線。いつ見ても、慣れない人の視線。

「DNA鑑定は…………どうだったのでしょうか?」

そう、用はアキトさんかどうか、ということ。

もしアキトさんのクローンなんて結果であれば、私は…………。

そう思うと、ぎゅっと無意識のうちにコブシを握り回答を待つ。

「それは、私から説明しましょう」

と、そこに颯爽と現れたのはイネスさんだった。

別名、説明オバサン………………。

今回も前回と同様、まったくどこからか現れました………一体、どこから?

ナデシコの全システムは私と直結しているから分かるはずなのですから・・・

「単刀直入に言うと、まったくの別人。DNA、指紋、声紋………等などの約30通りの検査から導き出される結果だから、信じて良いわね」

そう言うとイネスさんは腕をすっと、組む。

このポーズは”まだ説明は終わりません”の合図だった。

「ただ、一つ、気になることがあるの。DNAの中に、A級ジャンパーの体質遺伝子は………その、発見されなかったわ」

……え?

それはつまり……………。

「映像の”アキト”と、今回来る”アキト”は別人ってことですか?」

ユリカさんが私が疑問に思っていたことを口にしてくれるのですが………。

それじゃあ、意味不明ですよ………ユリカさん。

「そう判断するにはまだ早いわ。何かしらの実験により、後から意識的に加えられたってのも、考えられなくもないし」

「できるんですか、そんなこと?!」

「出来なくもないかも知れない、そんなところね」

お茶を濁すような言い方のイネスさん。そのイネスさんの意見を言ったすぐ後に、

「ただ、そのような技術はネルガルにもどこにも、ありません…ただ、<西星>のマッドサイエンティスト山崎なら、わかりませんが……」

楓さんがその会話に入り、ちょっと言いにくそうに言葉を紡ぐ。

「あの………みんな。もうそろそろ、コロニー”ミナヅキ”、確認できるよ?」

オペレーターのユキナさんからの質問。

「………とりあえず、考えるのは彼に会ってからにしましょう!」

と、ユキナさんは締めくくった。

 



スペースコロニーに着いたナデシコCは、早速ネルガルの人と話をつけ、最終的に護送船で”例の少年”をナデシコに乗船させる手段をとった。

それは、あの少年が暴れだした際の被害を最低限に抑えるためでもあり、そして、コロニー『ミナヅキ』内に潜んでいる彼の仲間からの奇襲を恐れてのことだった。

まあ、当然といえば、当然の措置だ。

あれだけの実力を持っているのだから。

それに、単体ボソンジャンプできるのはCC(チューリップクリスタルと呼ばれる、ボソンジャンプする際の現象起用媒体……つまり、簡単に言えばこれがないと、ボソンジャンプは不可能)がある場合だけだから、その危険性もない。

まあ、体内に仕込んでいればわからないけど。

「………あの、護送船にあの少年が乗っているのですか?」

私―月臣 楓―は、そう、誰に向けるともない呟きを発した。

そして、その呟きを聞いた私の兄、月臣 元一郎は一瞬だけだが、落ち込んだような沈んだ表情になる。

―やはり、お兄様は”木蓮式柔術『柔』”のことを……―

そう、昨日、この場所、ナデシコCのコックピットで見せてもらったあの映像で、テンカワ=アキトと瓜二つの少年の戦い方。

あれは、まさしく『木蓮式柔術『柔』』であったのだった。

しかし、あんな少年は私や、お兄様でも見たことない。

そもそも、あんなA級のシークレットサービスの隊員を軽々しく屠り、なおかつ単体ボソンジャンプ可能な人材が居れば、草壁が利用しないわけがない。

その人材が、特別でない限り…………。

その例が、先の騒乱、草壁中将の氾濫のさい、テンカワ=アキトに打ち倒された木蓮軍四方天が一人、”北辰”だった。

彼は草壁の”影”の実行部隊であり、表向きには知らされていないながら、かなりの実力を誇っていた。

事実、彼の存在を知るものは木蓮でも少数に限られ、実力を知るものは本の一握りだった。

私自身が草壁直属のエステバリス(あのころは”テツジン”と呼ばれていたが)部隊、『華月』のサブリーダーであった私は、北辰の存在を知っていた。

そして、実力も。

お兄様を含め、木蓮式柔術『柔』を使えるものは私が知っているだけで3人である。勿論、多くの旧木蓮軍人は疲れるので、それは除外する。

そうすると、一人は勿論北辰。そして、お兄様。そして、あとの一人の行方は不明である。

うわさでは、どこかで死んだという噂もあるが。

しかし、私はその噂は嘘だと確信している。そんなはずがない……”あのお方”なはずが………。

「……楓。お前こそ、例の少年が気になっているのだろう?」

いきなり内心を見抜かれ、私は一瞬、体を振るわせる。

時々、お兄様の洞察力には驚かされる。

「彼………今、ネルガルが全力を出して追っている”あのお方”の関係者ではないかと…………」

「お兄様」

私はお兄様の話の途中で、まったをかける。

「それ以上は。この事項はネルガルの中でもトップシークレット。機密ですわ」

私の意見を聞いたのか、それとも最初からそうするつもりだったのか、お兄様はそれ以上話すのを止めた。

「私は………あのお方を、信じております…」

最後に、そう言って会話を括った。

やがて、ナデシコCのメインスクリーンに護送船の姿が見え始めたのだった。

 

 

「いやぁ、皆、元気してた??」

その護送船を降りた途端、私たちは一瞬、目を疑った。

……………(沈黙

そして、全員の、

『…………なんでアカツキさん(会長)が、ここに?』

同一の疑問。

そう、目の前の人物はアカツキ=ナガレ。現ネルガルを束ねる長であり、そして………。

過去の戦友。私―ホシノ=ルリ―にとっての。

「あれ? なんで? 僕がここに居ちゃいけないわけ?」

あたりの人間は、その正論に反論できないのか、それともあきれてものも言えないのか、沈黙している。

あのお喋り好きなイネスさんですら、なんと言っていいのやら……といった感じでかぶりを振ってるし。

「あの、ナデシコCの船員全員を代表して、聞かせてください。アンタ会長の仕事はどうした?」

仕方なく、私、ホシノ=ルリはその沈黙を打ち破り聞いた。

「大丈夫大丈夫〜、”彼女”に任せてきたし」

……………現会長の秘書、エリナ=キンジョウ=ウォンさんに、ですね。

ご愁傷様です、エリナさん。

私は内心で、エリナさんにお悔やみを言った。

「……して、会長自らこの場にご足労頂いた理由は?」

流石のプロスさんも、この事態は予測していなかったらしく、聞く。

「いやぁさ。今、ネルガルにこの子を護衛できる力を持ったエステバリスライダーが居なくてねぇ」

それは、口実でしょうが。

そう突っ込みたい衝動を何とか抑える。

「それで、僕が変わりに護衛を……」

そこまで言って、私たちの視線は、アカツキさん以外の対象に移る。

そう、”例の少年”が船から下りてきたのだ。

特に普通の雰囲気、まあ、落ち着いているといえば落ち着いているのだろうか。

そして、テンカワ=アキト瓜二つの顔と、体格。

でも、やはりどこか、アキトさんとは違う。

そう思わせられる人物。

「……ま、話はこの辺にして。紹介するね、この子は………」

アカツキさんもあたりの空気を読み、そう切り出す。

「…ゲイル=テンイと…言います。今日からこの船でエステバリスのパイロットを務めることになりました。えっと…よろしく、お願いします…」

そう、アキトさんの声で、告げた。

沈着冷静を心がけている私も、流石にそれには絶句した。

 

「うん、紹介も終わったことだし、僕の個室は……」

『帰って下さい、アカツキさん(会長)』

「………はい」

そう皆さんに脅され………いやもとい、優しく指摘を受け、アカツキさんはさっさとナデシコCを去ります。

流石に、私たちもエリナさんを敵に回したくありませんし。(アカツキさんをエリナさんの扱きから庇い、引き取ったと誤解されて)

そして、その場には、例の少年、ゲイル=テンイさんだけが残りました。

その場に居る誰もが、なんと口にしてよいのか分からず、とりあえず少年を観察する。

やっぱり、アキトさんの若いころにそっくりだ。

そうしているうちに、当の本人から口を開いた。

「………あの、皆さん。とりあえず、この場所から移動しませんか? なんとなく……その、見られるのは慣れてないもので………」

恥ずかしそうにうつむく少年。

この人、本当にあの映像の人なんでしょうか?

なんとなく、別人っぽいんですけど。

しかし、姿かたちから言えば、そうとしかいえない。

それとも、世の中には他にアキトさん似の人物が居るのでしょうか?

「あ、ごめんねぇ、えっと……ゲイルくん………でいいのかな?」

ユリカさんが答える。ゲイルと呼ばれた例の少年は口数少なげに”はい”とだけ答えた。

「うん、よろしくね、ゲイルくん」

ユリカさんは優しく彼に握手を求める。

流石、ユリカさん。なんとなく、それは私にもすごいと思える光景でした。

「こちらこそ………えっと、ミスマル ユリカさんでしたよね………」

ゲイルくんから自分の名前を呼ばれたとき、ユリカさんの体が、一瞬だけ震えた。

おそらく、最初のアキトさんとの出会いでも、思い出したのでしょうか。

「あ……う、うん! よろしく! で、この人たちが……」

ユリカさんが私たちを紹介しようとしたとき、

「えっと、ルリさん、ミナトさん、リョウコさん、イネスさん、それに……ウリバタケさんに、ユキナさんにネルガルシークレットサービスの月臣さん、そして楓さんですよね? あと、プロスさん………」

ニコリとして、そう言う。

「ここに来る前、アカツキ会長から皆さんのことは教えていただきました。そして、テンカワ=アキトさんのことも………」

そこまで言って少年は再び、自分に向けての視線を気にしてか、また黙ってしまう。

恥ずかしがりやな部分まで、似ているのだろうか………アキトさんに。

「……あの、その…あまり見られるのは…その……」

そう言って照れてしまう。

私はふっと、何故か可笑しくなってしまった。

この少年が何故、アキトさんの容姿をしているのかはわからないけど、この人はアキトさんじゃないと、分かったから。

人を外見、経歴、過去などで判断するのは、愚かな人のすることが。

私を、”遺伝子細工”としか見れなかった、人間と同じ………………。

マシンチャイルドではなく………人間として見られる嬉しさ。

「始めまして、ゲイル=テンイさん。ネルガル私企業所属機動戦艦ナデシコCは、貴方を歓迎します」

そんな気持ちを押し出すように、皆を代表して私は言ったのだった。

 

 

それからというもの、ゲイルは徐々に”アキト似の男の子”から、”ゲイル=テンイ”という少年に見られるようになっていった。

それは彼の持っている”彼らしさ”が大きく影響している。

彼は普通に可笑しいときには笑うし、そして共感できるときには一緒に感じる。

そして何より、料理が下手。

これは大きかったと思う。なんといっても、アキトの料理の腕まで同じだったら、流石のオレもゲイルを”ゲイル=テンイ”という少年としては見れなかっただろうから。

オレ―スバル=リョウコ―は、そう考えていた。

そんな時、オレが自分のエステバリス”フウガ”のメンテナンスをしているとき、

「あの……リョウコさん?」

後ろから声がした。アキトと同じ声………。

「ん? ああ、ゲイルか? どうした?」

よっと私は軽い身のこなしでエステバリスの肩あたりから跳躍し、着地した。

普通の訓練していない人間がやったら、事故っている高さだ。しかし、オレには身近な高さだった。

目の前のエステバリス”フウガ”は、ネルガルがオレ専用に開発してくれたものだ。

何回か、試運転ということでつかってみたが、連合軍の支給機に比べ、画然と動かしやすくなっていた。

ウリバタケの野郎の話によると、オレ専用にいろいろ間接の拡大角度とか、視界の広さ、それに大幅な軽量化を測ったらしい。

まあ、オレはめちゃくちゃに動いてエステをつかいまくるのが好きだから、これはありがたかった。

それに反比例して、防御力は格段と低下したけど。

まあ、そこはオレの技術でカバーってことで。

他のエステバリスライダー、月臣と、楓、それにこの男―ゲイルにもそれぞれ専用機がある。

最も、飛び込みのゲイルの専用機は未だに技術班で整備中だが。

特効役向きななオレのエステ。機動性を最大限に重視した専用機だ。

楓と、ゲイルは主に中距離に位置し、敵を確実に屠る役目なため、多少防御力とスタミナを重視した専用機。

最後、一番奥で指令を飛ばす月臣の機体は、機動性よりも敵機の情報や全体の戦況の把握がしやすいよう、情報搾取専用に作られているため、他のエステよりはちょっと変わっている。

まあ、月臣の野郎のエステは戦闘向きではないとはいえ、軽く連合軍の隊長クラス(つまり、オレと同等)を簡単に屠って見せるくらいは可能だ。

それほど、ネルガルの技術者進歩していた。

いや、これは進歩しすぎだろう。これでは、ネルガルって企業が世界制覇をたくらんでも、なんの障害もなく、制覇できてしまうほどの抜きん出た技術力を持っている。

まあ、それをしないのは、会長が興味ないからだろうが。

もしかしたら対抗企業であるクリムゾン社のことがあってだろうか。

「………あの、リョウコさん?」

と、いきなり思考の世界から現実の世界へと戻される。

「おおっと、悪い悪い。ちっと考えことしてた………で、なんだゲイル?」

オレは目の前の少年、ゲイルに眼を向ける。

(いつ見ても、昔のヤツを思い出しちまうな…)

内心そんなことを思っていながら、口には出さない。

ゲイルは流石にばつが悪いのか、アキトの名前が出ると、とても申し訳なさそうな顔をするのだ。

まあ、あの顔は、どっちかっていうと、悲しげな顔だが。

とにかく、ゲイルの前でアキトの名前はタブーと、暗黙の了解で決まっているのだ。

「あの……アキトさんについて、教えてください」

タブーをいきなり破る発言。それも自分から。

これにはオレも流石に驚く。

「な、なんでまた……?」

「ミスマルさんには、その、聞きにくいんですよ。それと同じでルリさんにも。月臣さんと楓さんはそもそもあんまり関わってませんから。あ、でも、アキトさんが改……その、事故にあってからは関わっているんですが。その・・・僕は、前のアキトさんのことが知りたいんです」

”改造”の単語で少し詰まったものの、一気に言った。

確かに、彼の言うことは筋が通っているし、本心だろう。

「まあ……いいが。でも、なんで?」

そう、理由が分からない。俺に聞きに来たわけは分かったけど、それを知りたい理由が……分からない。

「やっぱり、僕、思うんですよ。僕は、アキトさんと、実際会ったことないのに、こんな顔をしてる……らしいですし」

そこまで言って、少年はぐっと悲しげな顔になり、

「ですから、怖いんです。その、僕が、アキトさんと、同じじゃないのかって………」

……オレには、よく分からなかった。

やはり、顔が似ているやつは、顔が似ているやつなりの悩みってのがあるんだろうし。

本人なりに、真剣みたいだしな。俺には、わからんが。

「うーん、オレにはよく分からんな。お前は確かにアキトとそっくりだし、オレも最初見たときは驚いた」

勿論、倉庫で、ではなく、映像で、だが。

それは黙っておく。

「でもよ、お前は全然アイツじゃないぜ? アイツはもっと不器用だし、それに人間的に”デキテ”なかったからな」

「はあ……”デキテ”なかった………ですか?」

ゲイルが疑問に思ったのか、聞いてくる。

「ああ、そう、鈍かったんだよ、その、恋愛とかそういうのに。じゃなくても、餓鬼だったな、お前なんかよりず〜〜っと」

オレも、過去、アイツのことを本気で好きになったことがあった。

実際、頑張って告白(に近い)こともした。

全然頼れないし、弱いし、でも、優しくて、人一倍真剣で、何事も諦めないっていうか……。

そういう、アイツに。

「他にもいろいろ。アイツはエステの操縦じゃあ全然だった。一回なんか、空中の戦闘で、地上用の装備で出て行きやがったことがあってなぁ、くっくっく、後から映像でそのことを見せてもらったときはもう、腹が捩れるくらい笑ったな」

オレは思い出してクックックと、腹を抱えて笑う。

「もう、海にとりあえず真っ逆さま!そのまま敵の兵器からぴょんぴょん跳ね回って逃げ回ってさぁ…っ!!」

と、そこまで言って、俺は少年の顔が気になり、ちょっと会話を中断した。

「あ…悪い……ちょっと、話ずれちまった………」

ちょっと…悪いこと下かな? コイツ、こんなに真剣なのに…………

しかしそこには、妙に晴れ晴れとした少年が居た。

「そうですか、なんか、少しアキトって人が分かって気がします。エステの運転が下手で、料理が上手で、人一倍人思いだったんですね」

そうそう、エステがへたくそ。それにめちゃくちゃ料理は旨くて……人思いで…………………………ん?

……あれ?オレ、そんなこと言ったか?

「………もしかして、オレが聞いた人間の最初じゃないだろ?」

ちょっと疑問に思い、聞いてみる。

「はい? そうですよ? 今まで、プロスさんとアカツキさん、それにゴートさんにミナトさんって…………」

……もしかしたら、最初にオレに聞きに来たんじゃないか? と思って喜んでいたオレは少しだけむかついて、

「そーゆー思わせぶりなところは、アイツにそっくりだ、このゲイルの野郎ぉぉぉっ!!!!」

「うわぁぁっ!! リョ、リョウコさん!? ちょ、ちょっとそのスパナ…………一体なんですか!!」

思いっきり、怒りをぶつけた。

「逃げんなぁぁぁぁ!!」「逃げますよぉぉぉーーーー!!!」

 

 

「ねえ、ルリルリ?」

そう声を掛けてきた人は当然、ミナトさんだった。

私、ホシノ=ルリは先ほどの倉庫でのリョウコさんとゲイルくんの喧嘩の様子をモニターしていたので、その言葉にとても驚いた。

人が集中しているときに…………。

ちょっと、怒りましたよ、ミナトさん。

「……ねえ、何か、怒ってない? ルリルリ…………」

そんな私の様子を察知したのか、苦笑い気味のミナトさんが聞いてくる。

「そんなことないです。それより、なんでしょうか?」

即刻その言葉を否定しておいて、私はミナトさんのほうに目を向けます。

「彼のこと、どう思う?」

一発。内心を着く一言。

一瞬、下手な言い訳で通そうかと思ったけど、そんなことをしても意味無いと悟り、ミナトさんに打ち明けます。

「正直、少しだけ、ココロが痛いです。でも、ゲイルくんはアキトさんじゃありませんし………」

そこまで言ってところで、ミナトさんが私のことをまじまじと見ているのを見て、言葉を濁す。

「な、なんですか、ミナトさん?」

「ん? んん……なんか、ルリルリ大人になったなぁって…段々、オトナになるんだね、ってね?」

そんなことを真顔で言うミナトさん。

私は少し恥ずかしくなって、

「そ、それは、人間3年もたてば、大人になりますよ」

と、適当にはぐらかす。

「違うよ私が言ったのは、心よ」

その言葉に私はさらに恥ずかしくなる。

そして、同時に嬉しさも感じる。

これが……過去の戦友。ちゃんと、私を”マシンチャイルド”じゃなく、人としてみてくれている………。

じゃなきゃ、心なんて言葉は出てこないだろう。

そういえば、ラピスとかいったあの子、あの子は……………どうなんだろう?

少しだけ、あのアキトさんのパートナーの女の子、ラピス=ラズリという子が気になる。

彼女も、私と同じ苦しみを?いや、もしかしたら私より苦しい苦しみを…………?

「でも、ルリルリ。彼と、話しずらそうね?」

その言葉に思考を中断してはっとなる。

「それは、その……

言葉につまる。

「でもね、それで良いとも思うんだよ、私。やっぱ、ルリルリとかユリカちゃんにとて、それだけアキト君は特別な存在だってことだから」

と、そのミナトさんの言葉のタイミングにあわせ、ゲイルくんを自動的に追ってモニターするモニターにユリカさんが現れる。

そして……………。

『ああぁ! ゲイルくん〜〜』

『ユ、ユリカさん!?』

妙に狼狽したゲイル君の声。

『あの………ユリカさん?何で僕にかまってくれるんですか?』

『勿論、アキトにそっくりだからだよ〜ゲイル君と居るとね、なんかすごく楽しいの!』

……………………。

……ユリカさん、その言葉がゲイル君を苦しめていることに気づいてないのでしょうか?

だったなら、鈍すぎますよ…ユリカさん。

その様子を見ながら、私ははぁと、ため息をつく。

それを見たミナトさんはとりあえず、

「に、人間…人、それぞれってことね?」

「……そういうことですね」

と、言い、それに私は曖昧に答えた。

刹那。

「?!」

私の頭脳に、正確にはISFを通ってオモイカネの監視システムから私に直接、ダイレクトで情報が流れ込んで来る。

その情報とは………っ!!

「ユキナさん、敵襲です。艦長、及び全職員を持ち場に着かせてください」

そう、敵襲だった。

「て、敵襲って!! レーダーにはそんなの、映ってなかったじゃない!!」

ミナトさんが、予想通りの疑問を発してくる。

「ボソン粒子以上増大………ボソンジャンプです。戦艦クラスの…。相手側からの前もっての知らせはありませんでした。これは、明らかに宇宙連合憲章に違反します」

私は、自分でもまだ信じれない事実を、口にする。

―まだ、A級ジャンパーが生き残っている?―

「そ、そんな…………」

流石のミナトさんも沈黙する。

「ミナトさんは艦の操縦、任せます。私は、敵艦にハッキングを仕掛けてみますから」

『了解』

ユキナさんと、ミナトさんが同時に私の指示に従ってくれる。

『オモイカネ、プログラム起動……このまま自動閉鎖機能へ移行………敵機、ハッキング、いけますか? オモイカネ?』

私は、早速ナデシコC、いや、オモイカネと一緒に敵機にハッキングを仕掛け始めた…………。

 

「ごめん、遅れちゃった!!」

私、ミスマル ユリカがコックピットに入ってきたときにはすでに始まっていた。

「敵艦は?」

私はとにかく冷静に、状況分析に入る。

「敵艦は単体ボソンジャンプを使い、いきなりの奇襲を仕掛けてきた模様!」

と、ユキナちゃん。

―単体ボソンジャンプ!!そ、そんな……―

俄かに、というかかなり信じられないことだが、この状況でナデシコクルーが嘘をつく利点など、ひとつもないので、事実だろう。

でも……誰が?

そして続けて………。

「尚、敵艦は現在確認されているだけで一隻。なお、ルリさんによるハッキングはプロテクトによって回避されました」

と、報告した。

「嘘〜ルリちゃんのハッキングが!??」

私は、その報告に”冷静”と言った言葉が消える。

ルリちゃんは、過去、一人とこのナデシコCを使って火星全惑星及び衛星のコンピューターを掌握してしまったほどの人物だ。

そのハッキングを受け付けないとは……。

マシンチャイルド、”電子の妖精”の名は伊達ではない。決して。

敵も、それと同等の戦力を保持していると考えてよい。

「…戦況は?」

そして、その答えにはルリちゃんがすばやく答える。

「敵艦はとりあえず動きはありません。でも、攻撃射程内に沈黙して今なお………っ?」

「え? …どうしたのルリちゃん?」

一瞬、報告が途切れ、私は疑問に思い、聞く。

「敵機、グラビティ・ブラスト、来ますっ!」

「え………………?」

いきなりルリちゃんはそう、叫ぶ。

私はその時、自分の耳を疑った。

グラビティ・ブラスト。強力な磁場を放射線状に発生させ、敵機を範囲的に破壊する攻撃方法。

文字通りの重力砲。そして、現在過去含めた戦艦同士の常套攻撃手段にして最終手段。

戦艦が持てる戦力として、最大で最強の武器。

ビームなどは、ほとんど戦艦を守っているディストーション・フィールドという、エネルギーのフィールドによって守られているため、効かないのだ。

しかし、グラビティ・ブラストの直撃を食らえば、ディストーション・フィールドなど、紙も同然。

つまり……防ぐことは不可能。

「そんな! チャージ早すぎます…どうすれば………っ!!」

オペレーターの人も混乱してパネルを捜査する手が止まる。

私は一瞬、混乱する。その時、後ろに居たプロスさんが、

「ルリさん! あれを使うのです!!!」

叫ぶ。

 

次の瞬間、ナデシコを敵機のグラビティ・ブラストが直撃したのだった…っ!


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