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+ 新最終話『 きっと適う”願い” 』 +
<<起きて……起きて……アキト……起きて……>>
すっと、ラピスの声が聞こえてくる。
いや、この声は…昔聞いた…懐かしい声だ。
ああ、あの時だ。
確か、俺が前日、夜遅くまで新メニューの開発に勤しんでいて疲れて、朝寝てしまったとき。
優しく、オレを包んでくれるような声で、オレを起こしてくれたっけ…。
あの、幸せな…オレの、生活。
今はなき、あの、生活。
オレも…まだ、あの頃の生活に戻りたいと思ってるらしいな…未練がましい。
俺はもう、償いきれないほどの犯罪を犯した。人を殺した。町を壊した。惑星を破壊した。
それ以上に、俺は俺が許せない。
俺には二度と幸せなどつかむ資格はない。二度と、”人”になる資格はない。
嗚呼、そういうことなら、俺は昇竜に殺されるべきだったのかもしれない。
俺と、似て非なる、存在を。俺の、影の存在を。
だが、俺はこうして生きている、生かされている。
生きる理由など、とっくになくしているはずなのにも関わらず。
多くの罪を犯しながら、自らの罪を認めながら、それでもなお生という絶対的なものに執着している自分が醜い。そして、憎い。
苦笑する。結局コレは何なんだろう、と。懺悔か? それとも、これは後悔か?
はたまた、未練か。もしくは、単なる自己満足、欺瞞……もしかしたら自らを正当化したいだけなのかもしれない。
俺は可愛そうだ、随分苦しんだ。今までのことはショウガナイだから、諦めようじゃないかテンカワアキト―――。
……………。
苦笑する。
俺には、最早幸せになる資格など、ないのだから。
そう思うと、更に声は強くなる。
『アキト………起きてよ……アキト……アキト……』
ユリカ…………―――
更に鮮明になる意識。
その言葉で、オレは急速に覚醒して言った。
「アキトさん、起きませんね」
……ルリちゃん?
ガバッ!と、布団を跳ね除け、おきたその先は、何故かナデシコの保健室だった。
いや、そもそもどうして布団など被っているのだ?
いやいや、もとい、何故俺はこうしていまここにいる??
分からないことだらけだった。
「…………何故、オレはここにいる?」
ふと、状況が読み込めず、あたりを見渡す。
「あ、アキト!!」
と、見渡す間もなくオレに抱きついてくるユリカ。
な、何がどうなっている??
「アキトさん………やっと、やっと、やっと…会えましたね……」
なみだ目の、ルリちゃん。
と、その横には…ニコニコ顔のラピス。
「……ラピス……事情説明を頼む………」
といっても、この言葉を聞いている時点で、すでに五感がリンクされている状況なんだから、リンクして聞けばいいのだが。
それでも今は、頭が寝ているせいか、あまりそういうことをしたくなかった。
「ええっとね、ラピス、アキトがやりたいっておもってたから、ナデシコに来たんだ!」
…………はぁ?
ぼふっと音を立てて、オレの布団にダイブしてくるラピス。
その笑顔にふと、微笑んでしまった自分を恥じる。
周りには…………白い眼。
「勘違いするな、これはな、別に卑しい好意というわけじゃなくてだな………」
次の瞬間、オレから引き離れていくように離れていくラピス。
……しまった。今、卑猥な想像をするべきではなかった…………。
激しく、恥じる。
白々しく言い訳をする俺。
「ロリコン?」
いいわけむなしく、ルリちゃんの一言によってナデシコCの保健室は、修羅場を迎えることとなるんのだった…………。
いつの日かの、ミスマル亭での出来事を、繰り返したような、感じだった。
「アキト…………アキトぉ!」
ふと、振り返る。
ココは、地球。
あれから、いろいろとあった。
必死に逃げようとする俺を、何故かラピスの五感サポートが切れてしまって(アレは人為的なものを感じるのだが)失敗したこと数回。
俺たちは、地球に居た。
今は、オレ、ユリカ、ルリちゃん、そしてラピス。
この4人で幸せに生活を営んでいる。
まあ、というオレはラピスの五感サポートがなくては生きていけないみなのだが。
しかし、ナデシコCの艦内で『ねえ、アキト。今日はお風呂、一緒に入らないの?』という質問をされたときには、流石に別の理由でユリカの下を離れようかと思った……。
殴られたショックで、ラピスは気絶してしまうし(まあ、五感が直接リンクしてるからな)
アレから3時間半。オレは暗闇の縁を一人さ迷ったのだが…。
といっても、五感はラピスの作ってくれていた装置のお陰か、かなり調子がよく、このごろは少しなら、自分で五感を動かす訓練もしている。
……今考えれば、あの状態で、よく訓練できたもんだ、ネルガルで。
「なんだ、ユリカ?」
そこには、ユリカが慌てた様子で走ってきていた。
火星と…同じだな。そう思ってついつい笑ってしまう。
「え…そ、その…なんだか、また、アキトがどこかに行っちゃいそうで……」
と、恥ずかしそうに告げるユリカ。
オレはそのユリカの行動が愛らしくて仕方なかった。
ずっと…ずっと、見たかった…ユリカ。
その行動の一つ一つが、強く、頭の中に刻み付けられていく。
「逃がしてくれるなら、何処にでもいくさ…お前のいないところへ、な」
俺にはまだ、幸せになる資格が…………。
<<アキトの…………バカァーーーー>>
頭の中で凄まじい感情が爆発した……。
ら、ラピス!!
その調子でラピスを見ると、何故か激怒した様子で……。
や、妬いているのか!?
そう、つい思ってしまう。
「ど、どうしたの? アキト?」
キスをしようとして、行き成り離れた俺を不思議そうに見上げるユリカ。
「い、いや……ラピスから………怒られた………」
ユリカがそれを聞くとくすっと笑って、
「ふふ、カワイイ〜ラピスちゃん♪」
抱かれるラピス。
そうすると、オレまで幸せになってくる。
<<気持ちいい〜なんか、幸せな感じ………>>
感情が、リンクして伝わってくる。
「アキトさん……その………」
と、今度はユリカの後ろに居たルリちゃんを見る。
「今度は、逃げませんよね? 逃げても、逃がしません。逃げれても、捕まえますけど」
そう、聞いてきた。
「ああ、逃げれないだろ。ありがと…そして、ごめん…ルリちゃん」
そっと、手を回して抱きしめる。
「はい……アキトさん……」
と、その声と同時に、
<<アキトの、浮気症〜〜〜〜〜〜〜>>
またまた激怒の感情が、俺の中に流れ込んできたのだった……。
これからの生活は、困難を極めそうだ…そう認識する。
同時に、俺はこんなに幸せでいいのだろうかと、思う。
……いや、いいはずがない。でも、この二人の思いは、痛いほど、わかった。
「これから、どうしようかな……」
とりあえず当面は、退屈せずに生活するしか、なさそうなのだった。
この二人が、逃がしてくれるとも、思えないしな。
END