彷徨えしアダム〜V.C.〜

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「やはり、そうか」

目を閉じふぅとひとつため息をついた

Mr.Banias貴方もお気づきになられたいたのですか?」

エルミナの問いに「ああ」と、謙悟はうなずく。

「君とは違い私は勘だけどね。薄々は気付いていたよ」

「・・・・・・勘ですか・・・・・・。私にはわからない世界です」

そんな、得体の知れないものは信用できないという口ぶりでエルミナは告げる

「無理にわかろうとする必要はないさ。これは経験だけがものをいうのだから。」

親が子供を諭すようにそう語りかけた。

「・・・・・・了解しました。Mr.Banias」

不承不承ながらも同意する。それを見た謙悟は満足そうにうなずくと、話題を変えた。

「さて、エル。情報をいただいてすぐで悪いが、Adamの情報を集めてくれないか? 特に

この一年間の彼の動向を中心として。接触したV.C.及び組織等、わかる範囲で。いかにAdamとはいえ、私達の目を一年も単独でごまかせるとは思えない。特に君の目は優秀だ。今まで早々隠しおおせるものではない。彼は目立つ」

「・・・・・・了解しました。期限は何時までに?」

「早くに越したことはない。だがまぁ、すぐに見つかるものではないからね。期限は無期限で頼むよ」

「・・・・・・了解しました。最優先事項として登録させていただきます。そして許可を、エミリアとエリスの・・・・・・」

「ああ、わかっている。妹達をこき使っていいよ。使えるのならね。エミリアはともかくエリスは使い物にならないと思うがね」

「エリスは目くらましに使えます。私達の動向を知られないための」

謙悟の不真面目な答えにも真面目にエルミナは返した。

「ハハッ。目くらましね。ああわかった、せいぜい、なきごといわせるくらいに使ってやってくれ」

ディスプレイ上で恭しく一礼をし、ブラックアウトした。インカムをはずし、けれど視線はディスプレイに落としたままで

「あのアホが」

そう呟いた。

 

「えっと、エルミナお姉さま。私達もエルミナお姉さまのお手伝いをすればいいんですね?」

場所は変わって、ネットワーク内某所で三人の少女達が集まって密談をしていた。

「そ。Administratorたっての依頼よ。」

少し明るいカールしたブロンドの髪に明るい紫の瞳のV.C.、エミリアが小首をかしげ聞く。

「お父様がですか?」

「どうしたの? 何か疑問でも?」

謙悟達の前ではないからか、多少饒舌なエミリアが、

「いえ。お父様が噂に興味をもたれるとは思ってもいなかったので・・・・・・。ものすごく意外です」

「ま、あの人も、興味半分で調べようとしてるだけよ。きっとね」

今回の件にはなるべくかかわらせ無いようにという配慮だろう、目的は一切述べずに謙悟の趣味という事にする。

「では、私も調べてまいりますね。あ、でもどうやって調べましょう?」

「表では、エミリアの人脈にかなうV.C.はいないわ。とりあえずそれらしいうわさの出所を探って頂戴。私は地下で探すから」

「わかりました。エルミナお姉さま。では、お先に失礼いたしますね」

実質この姉妹を取り仕切っている姉に対して典雅に一礼をすると、身を翻すが否やプリズムを発しながら目的地へと転移する。

「え〜っと。で、エルミナ姉さま。僕は何をすればいいの?」

ずっと蚊帳の外となっていたもう一人が問う。

「簡単な仕事よ。私の護衛」

「え゛」

ショートボブの黒髪がいかにも活発な印象を植え付ける女性型V.C.エリスがエルミナの裁定に不満の声を上げる。

「何か不満でもあるのかしら?エリス」

 

「だって、姉さま。地下に潜るんだよね」

「ええ。そうよ」

「えっと、地下ってウイルスや、違法V.C.がゴロゴロしてる・・・」

「だから私を護衛しなさい」

いやな汗をダラダラかきつつも何とかエリスは反論を試みるが、有無も言わさず却下される。

「断ると言う選択肢は・・・」

Mr.BaniasのPCのセキュリティホールを直すと言いつつ被害を拡大させた尻拭いは誰がやったと思ってるのかしら」

「エルミナ姉さまです。」

「他にも、Administratorへのe-mailをスパムと勘違いして抹消した件。Mailを見つけ出して復元したのは誰だったかしら?」

「うう・・・・・・(泣)エルミナ姉さまです」

「にもかかわらず、お姉さまのお願いは聞けないと?」

自分の敗北を悟りがっくりと首をさげ泣きながら言う。

「・・・・・・わかりましたエルミナ姉さま。僕に任せてください」

「よろしい。では行くわよ。露払いしなさい」

そう言いエリスを先行させる。半分泣きそうな顔をしながらエリスもまたプリズムとなってその場から消える。それを確認した後エルミナもまたプリズムと化して消えていった。

 

「この時期にアダムが姿を見せるなんてなんていう皮肉なのかしらね」

シーツと服のこすれるかすかな音を連れて彼女が感慨深げに誰に言うでもなく小さくしゃべった。

「何時から起きてました螢奈?」

「『Adamの情報を集めてくれないか』といったあたりからよ。あなたの本当の目的はこれね」

彼女の問いに謙悟は沈黙で肯定を返す。

「・・・・・・ねぇ。今回のAdamの件私に・・・・・・」

「それは出来ません」

彼女の言わんとしていることがわかるのか彼女の言に被せる様にいう。

「何故?だって、Adamは私が・・・・・・」

「螢奈。貴方の言いたいことはわかりますし、心情としてもそうしてやりたい出来るものなら。でもそれは出来ない」

あくまでもきっぱりと彼女の話を拒絶する。それに対し螢奈は半身を起こしなおも食い下がる。

「心情がわかるならどうして!! そんなに私が頼りない? ねぇ、なんで私じゃダメなの? 何でいざというときはお兄様も謙悟も私を頼ってくれないのよ!!」

泣きながら、ずっと溜まっていたのであろうその鬱屈とした心の叫びを彼は一言で両断する。

「では、あなたは息子に悲しそうな声で『また、私を殺そうとするのですね』と呼ばれても何のためらいもなく殺すことが出来ますか?」

「・・・・・・出来るわ」

わずかな逡巡の後、螢奈はそう答えた。

「出来ませんよ貴女は。言葉ですら、その逡巡があるくらいですから。実際にその場面になったら躊躇うでしょう。でも、勘違いしないでください螢奈。先輩も私も、その純粋さを失ってほしくないからあなたに生臭いことを見せたくなかったのです。実際にただのプログラムであってもそれは、私達が心血注いで作り上げた息子です。貴女に息子殺しなんてさせたくない。ですから私達は貴女を・・・・・・」

ベッドの傍らに来て必死になって螢奈を説得する謙悟に彼女は、人差し指を彼の口元に当て封印する。

「わかったわ謙悟。なら私はこの件における実行権一切を放棄します。でも、アダムが死ぬときは立ち合わせて。あの子は私たち三人が作った最初で最後のイージスすらも足元に及ばない最高傑作だから・・・」

それは、彼女が彼に出来るせめてもの抵抗だった。

 

 

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